OPPENHEIMER

2024.04.17.

Posted on 04.17.24

先日のお休みは、シアタス心斎橋でクリストファー・ノーランの新作『オッペンハイマー』を観てきました。

 

 

本作の主人公,オッペンハイマーは原爆の生みの親であり、日本は世界で唯一の被爆国ということもあって、一時日本での劇場公開はないんじゃないか(いくらなんでもそれは過剰措置だと思います)と言われていましたが、だいぶ遅れてではありますが日本でも公開されたので映画館で観たいと思いました。

 

ノーランの凄いところはたくさんあると思いますが、僕が特に気に入っているのは彼がこんなにSF的な作品をたくさん撮っているにもかかわらずCGを一切使わずアナログ撮影に拘っているところです。

本作は35mmフィルム版もあると聞いて、どこかでやってるならそれを観たいと思ったのですが、残念ながら関西では上映されないということで、3時間でもなるべくお尻にダメージが蓄積されないようにコンフォートシートなる寝そべったまま観れるシートのあるシアタス心斎橋で観ることにしました。

 

カラーとモノクロを使い分けた構成で、時間軸を巧みに操るノーランマジックは相変わらずお見事でした。

そしてトリニティ実験のシーンは特に素晴らしかったです。

 

 

緊張感のある映像と音響。

本作はわざわざIMAXで観る必要はないかなと思いましたが、音響の良い映画館で観ると良いかも知れません。

個人的には、ここ最近のノーラン作品では一番好きでした。

 

 

 

ご興味のある方は、ぜひ映画館に足を運んでみてください!

先日のお休みは、ジャン=リュック・ゴダール監督の遺作『ジャン=リュック・ゴダール/遺言 奇妙な戦争』を観てきました。

 

 

本作の原題は、『決して存在することのない「奇妙な戦争」の予告編』

“奇妙な戦争”は、生前のゴダールが企画していた構想でしたが、その映画は完成することはなくゴダールは安楽死を選びました。

長編映画の完成を諦めたゴダールでしたが、その代わりに約20分の短編映画となる本作を遺しました。

そして、それが私達が決して観ることのできない映画の予告編だなんて、、

ゴダール、最後までカマしてくれます。

 

 

冒頭、アーサー・ペンの『奇跡の人』の抜粋写真に、手書きで「映画『奇妙な戦争』の予告編」と書かれたコラージュの静止画から映画は始まります。

しかし、無音で続くその静止画は長い時間次のカットに進みません。

僕は心の中で笑けてきました。

 

ファスト映画とか“タイパ”とか言う言葉まで生まれるような、日々時間に追われて忙しすぎる現代に向けて、ゴダールはたった一枚の静止画だけで痛烈な批判をしています。

もう、言葉さえも必要ない。

 

その後も、自身が一度破壊した映画の枠組みをさらに解体して、さらに自由に再構築したような斬新過ぎる構成のオンパレードで、これは計算し尽くされた超難解なものなのか、それともその大部分は人生の最終盤を迎えたゴダールの気まぐれによるものなのか、浅学の僕には解りかねました。。

 

でも、最後のゴダールの勇姿を映画館で観ることができて良かったです。

まだ観れていないゴダール作品も多いので、それらを観ることもこれからの楽しみです。

 

まだゴダールを観たことがないという方は、まずは彼の処女作『勝手にしやがれ』を観てみてください!

Posted on 03.08.24

先日の水曜日は、仕事を少し早めに切り上げて、心斎橋CONPASSへライブを観に行ってきました。

 

オーストラリアのメルボルン出身で、現在はロンドンを拠点に活動するバンド,HighSchoolの初来日公演。

 

 

 

僕自身、コロナ以降ライブに行ったのは初めてで、久々のライブでした。

でも、メチャ良かった!

 

The SmithやNew Orderを彷彿とさせる楽曲の数々。

2021年に発表されたEPを聴いてから、ずっと彼らのことはチェックしていました。

まさかこんなインディロック好きの間でもまだまだ知名度も低そうなバンドをよく大阪にも連れて来てくれました。

 

小ぶりな会場には、やはり外国人も多かったですが、20代と見受けられる若い層のファン達の姿も意外と見受けられて、若い世代でもこういう音楽を聴いている子はまだいるのだなと少し嬉しくも思いました。

そういう子達は、ファッションにもちゃんと独自の個性があってオシャレな子が多いです。

そして見た目が地味めでこういう音楽聴いてる子は、さらに面白い。

 

 

物販では、HighSchoolを大阪にも呼んでくれたORMさんのマガジンと来日公演限定のCD(ライブが終わってからサインをいただきました!)、そしてライブ前には買わなったTシャツがあったのですがライブが良かったので彼らにさらに一票投じる気持ちでそれも購入させていただきました。

結局、売ってるものは全部買いました笑

 

HighSchoolもORMも、今後の活動にもますます期待しております。

知らない方は、よろしければぜひご視聴してみてください!

 

 

 

NOSTALGIA

2024.02.22.

Posted on 02.22.24

先日のお休みは、梅田のシネリーブルで大好きなタルコフスキーの映画『ノスタルジア』の4K修復版を観てきました。

 

 

 

実はこの日観たい映画がもう一本ありました。

ヴィクトル・エリセの新作『瞳をとじて』です。

 

 

『ノスタルジア』の上映時間は夕方からしかなかったので、両方観るなら午前開始時間のエリセ(3時間弱の大作)、映画館をハシゴしてタルコフスキーのルートだったのですが、タルコフスキー前に体重が3kgは落ちてそうな気がするので、夕方までは家から一歩も出ずに英気を養い、万全の体調でシネリーブルへ向かいました。

 

エリセも素晴らしい映画監督で『ミツバチのささやき』などは特に感動的でしたが、それでもそのエリセの新作を無理して観ないという選択をしてでも、Blu-rayを所有してて何度も観たことのあるタルコフスキーの『ノスタルジア』を映画館で観れるということの方が僕には価値が高く思えました。

それくらい大好きな映画監督ですし、大好きな作品です。

 

 

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エリセの新作を予習してた時、その本編の中で「カール・テオドア・ドライヤーが死んで以来、映画に“奇跡”は起きていない」というセリフが出てくるそうです。

いや、タフコフスキーがいるじゃないか。

僕はそう思います。

 

タルコフスキーは、本作『ノスタルジア』でも映画史に残る奇跡のようなショットを連発しています。

 

 

 

 

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本作の冒頭のシーンで、ヒロイン,エウジェニアは主人公アンドレイにピエロ・デラ・フランチェスカが描いた“マドンナ・デル・パルト”(出産の聖母)を見に行こうと言います。

ですが彼は「美しい景色など見飽きている」と言って同行しませんでした。

 

このセンテンスは、SNS等の普及によって益々マジョリティな人々の趣向が均一化していく現代において、より皮肉さが増しているように思います。

皆に共通して認識されている“美しいもの”よりも、誰にも気づかれていない“美しいもの”を発見した時の方が余程面白いです。

 

 

水、火、光、闇_

陰影に富んだ映像と繊細な音響。

空間、時間、そして人間の葛藤を巡る、タルコフスキーによる詩的宇宙の極致。

 

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映画の奇跡を目にされたい方は、ぜひシネリーブル梅田に足を運んでみてください!

 

Posted on 02.17.24

いつもお世話になっているアーティストの荒木志華乃さんの個展が心斎橋のギャラリーササキ商店で開催されるということでDMを持ってきてくださいました。

 

 

 

荒木さんは、老舗カステラとして有名な長崎堂の4代目でもあります。

菓子ブランド「黒船」なども手掛けています。

 

センスも経歴も凄過ぎる方なのに、いつもこんな僕にも気さくに話しかけてくださったり本当に良くしてもらっています。

最近では、お母様もご紹介してくださり、いつもお母様の肩を持って付き添ってご来店くださります。

お母様もオシャレで気品があって、さすが名家の血筋だなと感心いたします笑

 

当店の入っている建物に荒木さんのアトリエがあります。

たまにお邪魔した時は、芸術映画で使う為のロケーションかと思うくらい魅力的なインテリア空間に優雅なクラシックが流れており、まるで異世界のようなとても素敵な空気感です。

 

個展のテーマは『imaginal cell』

“五感で感じたものすべては イマジナルセルのなかでディスクとして格納され

そこから伝達される言語はやがて私の創造物として現れる”

 

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もう、凄い次元におられます。

僕も荒木さんの感性を少しでも吸収させていただくべく、個展にお邪魔させていただこうと思っています。

 

展覧会は、2/19-3/4まで開催されていますので、ご興味のある方はぜひ足を運んでみてください!

 

 

 

Posted on 02.09.24

先日、仕事が少し早く終わったので、そのままパルコに入っているシアタス心斎橋へ向かい、レイトショーで ヨルゴス・ランティモス監督の新作『哀れなるものたち』を観てきました。

 

 

 

本作の主人公は、新生児の脳を移植された身体は大人の女性,ヴェラ。

無垢な感情を持つ彼女は、「世界を自分の目で見てみたい」という思いからヨーロッパ横断の旅に出るという、人間の本質や階級社会の在り方,そしてフェミニズムにも訴えかけるダークファンタジー作品。

 

 

ランティモスの才能は、本当に素晴らしいです!

豪華絢爛な衣装や映像にはうっとりさせられ、ストーリーは知的でありつつもクセが強い。

しかもブラックユーモア満載。

僕はいつもランティモスのツボからは絶妙にズレている感覚で、面白いけどクスリとはならないのですが、近くで観ていらっしゃった外国人の方は声出して爆笑してました。

世界の感覚は深いです。

 

 

ご興味のある方は、ぜひ映画館に足を運んでみてください!

 

お客様が素敵なDMを持ってきてくださいました。

 

 

フランス人アーティスト,アンヴァレリー・デュポンの来日展覧会の案内です。

彼女は、家族や友人から譲り受けた古い布を組み合わせ“彫刻”として新たな命を吹き込む活動をしているテキスタイル彫刻家。
会場となる京都の法然院も素晴らしいロケーションです。

僕は以前、彼女のキーホルダーサイズの作品を購入させていただいたことがあります。
(本当は大きいのも欲しかったのですが、値段に躊躇して現実的な選択をしたんです)

そのキーホルダーを子供の保育園バッグに付けようとしたのですが、奥さんにさすがにそれはやめてくれと言われました。
一般的な家庭の親御さんから見れば、なんてデザインのものを付けさせているのかと思われるのかも知れません。

ということで、会期は2月20日~25日まで開催されています。

 

 

ご興味のある方は、ぜひ京都まで足を運んでみてください!

 

Posted on 02.02.24

先日発表されたジョン・ガリアーノによるMaison Margielaの2024 アーティザナル・コレクションが素晴らしかったのでご紹介させていただこうと思います。

 

 

今でも神格化されるほどの創業者デザイナー,マルタン・マルジェラが去り、その意志を継ぐデザインチームによって継承されていたマルタンイズムの中に、ジョン・ガリアーノがクリエイティヴ・ディレクターとして加入したのが今から10年前の2014年。

 

それからモード界もメゾン・マルジェラも、そして世の中も大きく変貌しました。

今、日本においても、そのブランドを手掛けているデザイナーを知らないで洋服やバッグを買う層が以前に比べてかなり増しています。

大部分と言っても良いかも知れません。

 

街でもマルタンの名作,Tabiブーツや、その派生系みたいな靴を履いている方をよく見かけます。

それらの方の多くが、そのデザインが生まれた背景についてなんて知らないでしょうし、そもそもそこまで知りたいなんて思わないでしょう。

でもそれを自身が買ったことはSNSとかに載せている方も多くいると思いますし、それが“メゾン マルジェラ”の人気商品であることに購買意欲を増す方が多いのでしょう。

 

それはマルジェラだけじゃなく、もともとモードが好きな人しか買っていなかったであろうバレンシアガやセリーヌ,その他諸々のラグジュアリーブランドでも同じような現象が起きています。

 

モードの世界は、SNSの普及や資本主義社会の拡大によって、その価値観と美学を愛する人達が憧れる存在から、一気にマス層へと浸透していきました。

その弊害は色々なところに出てきています。

世の中も、人の思考も、とても薄っぺらいものになってきているなと感じます。

モード界さえも目先の売上に魂を売りました。

 

 

僕自身も以前よりもモードに対する興味は少し薄れ、限定的なものとなってきていましたが、そんな時に今回のガリアーノのショーを観て、「モードってこういうものだったよな」って久しぶりに思いました。

 

 

ガリアーノはもともと、Diorのデザイナーとして素晴らしいコレクションを発表していました。

現在、モード界にいる全てのデザイナーの中でガリアーノを超える才能を持つデザイナーがいるのか?と問われたら、そんなに多くの名前は挙がらないでしょう。

もしかしたらナンバーワンかも知れません。

ある日の夜、酔っ払った彼はユダヤ人を差別する発言をしてしまいました。

今のようにSNSの普及していない時代でしたが、その様子が記録された映像は関係者の目にも留まり、ガリアーノはDiorを解雇されました。

 

それから数年後、モードの世界から追放されて粛々と生きていたガリアーノに救いの手を差し伸べたのはアナ・ウィンターだったそうです。

モード界に強い影響力を持ち、顔の広い彼女は、懸命にガリアーノのデザイナー復帰を手助けしました。

ガリアーノの才能をこのまま眠らせておくのは、何よりの損失だと思ったのかも知れません。

 

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今のモード界は、これまでモードを見てきた目の肥えた人達から見るとガッカリさせられるような状況です。

それは経営陣以外の、モード界の中枢でクリエイティヴに関わる人達は声には出さないけど多くの人が感じていることだと思います。

 

そんな人達にとって、今回のガリアーノによるショーは、“モードな人達”の渇いた心に久しぶりに感動を与えてくれるような素晴らしいものでした。

モードという精神が窮地に立たされた今、一度はモードの世界から追放された人物が今度はそれを見事に救ってくれたような気がしました。

 

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ガリアーノが描く少し歪んだ美的世界観。

今まで見たことのない美しいシルエットの洋服、振付師,パット・ボグスラウスキーによって監修されたモデルの演技のようなウォーキング、まるで陶器のようなメイク、ゴシックで不穏な気配を漂わせるスモーク、ショーの空気を彩る音楽、細部まで作り込まれた素晴らしいロケーションと映像のフレーミング…

息を呑むとは、まさにこのことです。

 

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こんなデザインの服、街で誰が着ますか?

こんなメイクや顔に誰が憧れますか?

 

でも、これこそが正真正銘のモードなんです。

 

ルブタンとコラボしたTabiブーツはきっとセレブ達のSNSには登場するのでしょうけど、ガリアーノ自身が見てほしいのはきっとそんなところではない筈です。

 

今は、このショーの素晴らしさが理解できるような人の感性の方が片隅に追いやられて、ルブタンのTabiブーツを買ってSNSでアップする人やマルジェラの四つ打ちステッチの入ったアイテムをこれ見よがしに上げる人の方が“オシャレ”と一般の人には認識されてしまうような世の中ですが、このガリアーノのコレクションがそんなつまらない世界を変えるきっかけになってくれることを願っています。

 

 

PERFECT DAYS

2024.01.30.

Posted on 01.30.24

昨日のお休みは、ヴィム・ヴェンダース監督の新作『PERFECT DAYS』を観に映画館へ行ってきました。

 

 

 

今作の制作の背景には、ユニクロでお馴染みのファーストリテイリング社の柳井康治氏が発起人となったプロジェクト, THE TOKYO TOILET (以下,TTT)があります。

 

TTTは、渋谷区にある公共トイレを世界的な建築家やクリエーターにデザインを依頼して、それぞれの視点でリニューアルされている公共プロジェクトです。(現在までに17ヶ所が完成)

 

 

これらのトイレには専門の清掃員がいます。

「その清掃員を主人公にした短編映画を撮ろう」

そこからこの企画は産まれ、監督としてヴィム・ヴェンダースにオファーを出したそうです。

 

今作の主人公,役所広司さん演じる平山(小津安二郎の名作『東京物語』で笠智衆が演じた主人公と同性)の仕事はトイレ清掃員。

 

正直、このプロジェクトの背景を知った時は、エリートで裕福な大手企業や自治体が協賛した映画なんて分かりやすくて薄っぺらいものにされているんじゃないか(色々と協賛企業から変なお願いされたりetc…)とヴェンダースを心配しましたが、そこはさすがはヴィム・ヴェンダース、素晴らしい作品を完成させていました。

 

一人のトイレ清掃員の特に何も起こらない日常を通じて、人生における哲学を投げかけています。

しかも小難しい作りではなく、普段邦画やエンタメ作品に慣れ親しんでいる日本人にも観やすい作品に仕上げているのは、本作でヴェンダースと共に共同脚本を手がけた高崎さんを始め日本人スタッフの参加がプラスに働いている部分なのだろうなと思いました。

 

この映画で、ヴェンダースは“木漏れ日”というワードをひとつのテーマにしていました。

「森林などの木立ちから太陽の日差しが漏れる光景」を指すこの言葉は、翻訳して表すのがとても難しいらしいです。

樹木に風が吹き込めば、枝や葉が揺れ、地面に映し出される影と光は細やかに交差します。

 

 

僕が住んでいる大阪市西区地域はとても住みやすく、近隣にも安心して子供を遊ばせることができる公園がたくさんあります。

天気の良い日には、そこにはたくさんの子供たちやその保護者の姿があります。

 

しかし、その同じ空間にいても、本作の主人公のようなトイレ清掃員のことや、そのベンチに佇んでいるホームレス風の人物のことをどれだけの人が気にかけるでしょうか?

中には、小綺麗にしている自分達とは住んでいる世界が違うのだと、どこかで線引きする気持ちを持ったりしている人もいるのではないでしょうか?

 

僕自身も、それなりに安くない金額をいただいて、ヘアデザインを楽しんでくださる比較的恵まれた環境のお客様を相手に仕事させていただいているという現実の中で暮らしています。

自分の趣味も、ファッションやアート、映画や音楽など、購買意欲を強く刺激されるようなものが多いです。

 

本作の主人公,平山の趣味は、読書と音楽鑑賞,フィルムカメラで、自分にも共感する部分が多かったですが、それらを満たす為には古本屋の100円文庫と安物のコンパクトカメラ,そして随分昔に買った好きなアーティストのカセットテープで十分でした。

とても質素ですが、それでも十分に満足できる暮らしにも思えました。

自分の考え方や暮らしにも、多くの矛盾を突きつけられているようでした。

 

僕は現代において、今の10代後半~30歳くらいの若い世代の子達が(大衆的ではない)カルチャーに益々興味を持たなくなっているように感じているのですが、それはただ単に彼らの近くでそれらの存在を伝えられるような環境が少なくなっているだけなのかも知れません。

 

自分自身もネットで本を注文することも増えましたが、それでもやはり週に一回は本屋に行くようにしています。

それは、ネットだと自分のテリトリの情報しかキャッチできない時が多いからです。

本屋に行くと、グルリと見て回るだけでも、新しく発見できるものが毎回必ずあります。

 

 

本作のタイトルである『PERFECT DAYS』は、ルー・リードの名曲“Perfect Day”から取られています。

作中では、他にもパティ・スミスの“Redondo Beach”など、主人公,平山の性格やセンスの良さが垣間見れるような素晴らしいプレイリストが構成されています。

 

本編を通じて主人公の生き方やこれまでの人生のバックグラウンドを観客に理解,想像させてのラストシーン、目に涙を溜めながら必死で笑おうとする平山の表情の長回しには、とても考えさせられるものがありました。

 

作品を観終わって、売店でパンフレットを買って、僕はエレベーターに向かわずに誰も使っていない階段を使って下へ降りました。

涙が今にも流れそうに込み上げてきていたからです。

 

階段まで何とか泣くのを我慢できて安心したのか、溢れてくる感情が涙となって現れてしまいましたが、僕は階段を降りながらラストシーンの平山を見習って他のパーツで必死に笑顔を作り、一階に辿り着く頃には何事もなかったかのように道行く人に溶け込み、ひとり静かに帰宅しました。

 

少しでも多くの現代人に観てほしいと思う作品でした。

まだご覧になられていない方は、ぜひ映画館で観てみてください!

Posted on 01.23.24

最近、お客様からいただいたDMを2つご紹介させていただきます。

 

 

左側の芸術性と可愛らしさが共存した素敵なポストカードは、インクや木炭などを用いて絵を描いていらっしゃるアーティストのいのとみかさんの個展のお知らせとなっています。

ちょうど個展が開催される前にカットしにいらしてくださいました。

 

僕が別のお客様からオススメしてもらった現代思想1月号を待ち時間の間読んでくださっていました。

お客様から教えていただいたものを、美容師である自分を通じて、また別のお客様にご紹介することで、こんな小さな街の美容室を通じてでも小さな文化の循環が生まれていきます。

今の時代は、大阪からも日本全体からも、文化やカッティングエッジなカルチャーに対して興味を持つ人口が益々減ってきていますが、V:oltaは美容室として少しでもそれらを大切にできるサロンでありたいと思っています。

 

いのとみかさんの作品は、以前個展を観に行かせてもらったことがあるのですが、独特なのに親しみやすいような少し不思議な世界観のある作品でとても面白い作品展でした。

今回は、中津のカフェギャラリーで個展が開催されているということなので、ご興味のある方はぜひ足を運んでみてください!

 

https://kinone.gallery

 

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左のDMは、お客様の勤務されているクリエイティヴスタジオが開催する音楽イベントのDMです。

 

 

こちらは上に書いた現代で無くなってきているものの後者にあたるイベントですね。

その名も『わわわわわ音楽祭』

EGO-WRAPPIN’の中納良恵さんやあふりらんぽのONIさん,民謡クルセイダーズのライブなど、なんだかカジカジとかが東京からも注目されていたり大阪が大阪らしいカルチャーを発信できていた頃のようなイベントです。

このDMを持ってきてくださったお客様は、仕事だけじゃなく、個人でも関西のカルチャーを盛り上げる為のイベントやコミュニティスペースの主催をしたりもしている、とてもバイタリティに溢れた方です。

このイベントも既に前売り券の売れ行きがかなり好調だと聞いて、僕も嬉しくなりました。

それだけ関西にも、まだこういったカルチャーに興味を持つ方がいるということです。

 

最近は、アップカミングなアーティストのライブや興味深い芸術家の美術展なども、東京開催のみで関西には来てくれないというパターンが増えています。

みんなファッションとかにはそこそこ興味持ってる方も多いのに、それに直結する音楽やアートなど,他のカルチャーの分野は全く興味を持たない(ニッチではない)という人が大半のように思えます。

流行を後追いするのではなくて自分らしいオシャレを見つけたり、自身のセンスやバランス感覚を磨くには、それらの要素がとても重要だと思います。

 

こういう場所には、普段なかなか出会えないようなオシャレな人やカルチャーに精通されている人がたくさんいます。

皆さん、ぜひ刺激を受けに行ってみてください!

 

で、その流れでV:oltaにもぜひいらしてください!

長々と書きましたけども、僕が書きたかったのは最後の一行であります。

『枯れ葉』

2024.01.09.

Posted on 01.09.24

2024年の映画館詣は心斎橋パルコの上のシアタス心斎橋へ。

 

フィンランドの監督,アキ・カウリスマキの新作『枯葉』を観てきました。

 

 

宝物にしたいくらいの素敵なパンフレットです。

 

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この時代にカウリスマキの新作を映画館で観れるという幸せ。

 

2024年冒頭から大地震が起こり、飛行機は事故を起こし、今もウクライナやガザ地区では戦争が続いている。

 

こうして平和に映画を楽しんでいる自分にどこか後ろめたい気持ちを感じながらも、やっぱりカウリスマキはいいなと思えるような素晴らしい作品を鑑賞できたことに感無量のひとときでした。

 

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パンフレットの見開きに書いてあったカウリスマキのメッセージが素晴らしかったのでここで紹介させていただきます。

 

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取るに足らないバイオレンス映画を作っては自分の評価を怪しくしてきた私ですが(注:僕の知る限りカウリスマキはそんなもの作ってません笑)、無意味でバカげた犯罪である戦争の全てに嫌気がさして、ついに人類に未来をもたらすかもしれないテーマ、すなわち愛を求める心、連帯、希望、そして他人や自然といった全ての生きるものと死んだものへの敬意、そんなことを物語として描くことにしました。

それこそが語るに足るものだという前提で。

 

この映画では、我が家の神様、ブレッソン、小津、チャップリンへ、私のいささか小さな帽子を脱いでささやかな敬意を捧げてみました。しかし、それが無惨にも失敗したのは全て私の責任です。

 

アキ・カウリスマキ

 

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なんて謙虚でユーモアに溢れた素敵なメッセージでしょうか。

このメッセージが書かれた本作のパンフレットは、一生大事にしようと思います。

映画館で観ることができた、この素晴らしい映画の思い出と共に

年度代表盤 2023

2023.12.28.

Posted on 12.28.23

今年も毎年恒例の年度代表盤を発表させていただきます。

 

最近、Apple Musicの仕様が変更され、アカウントに追加した作品の履歴が直近のものしか表示されなくなったことで、この1年で発売されたアルバムがどんなものがあったのかが確認できなくなってしまったので、今年のランキングは例年以上に適当に選び簡素化しました。

 

 

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5th/ Tirzah – trip9love…???

 

今年のポップな癒し系アルバムno.1はこの作品です。

普段、インディ・ミュージックまで掘り下げて聴いていないという方にも、比較的耳馴染みの良いアルバムかと思います。

年末の大掃除の休憩時間にでも、ぜひ聴いてみてください!

 


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4th/ Oneohtrix Point Never – Again

OPNの新譜は、いつでも歓迎します。

『R plus Seven』の頃に比べると、ずいぶん肩の力が抜けてきたのかなと思います。

『R plus Seven』は文句なしの金字塔アルバムでしたが、最近のOPNもこれはこれで大好きです。


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3rd/ CTM – Vind

 

歴史ある建物を見た時のような厳格さと、季節の移り変わりを肌で感じるような叙情的なムードが絶妙にブレンドされた作品。

個人的にCTMのアルバムは毎度外しませんが、今作は特に好きでした。

 

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2nd/ bar italia – Tracey Denim

 

 

最近はロックよりアンビエントやドローンを聴く機会がめっぽう増えましたが、僕が最初に音楽が好きになったのはロックの影響です。

ロンドンでは一時期ロックが停滞していましたが、またここ最近はロック熱も再燃し、素晴らしいバンドがたくさんシーンに現れています。

その中でも、彼らは特にお気に入り。

再来年に控える大阪万博は失敗する気配ムンムンですが、今この時代にこの音を出すバンドがいてくれることを本当に嬉しく思います。

いつかライブを観てみたいです。

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1st/ Laurel Halo – Atlas

 

信じられないだろ?あのLaurel Haloがこんなアルバムを完成させるんだぜ?

僕があだち充さんなら、きっとタッチにこのセリフを入れられるように内容をゴリ押ししてたと思います。

あまりにも美しいアンビエント・ジャズ・コラージュ組曲。

 

英国人チェリスト,Lucy Railton、ノルウェーのサックス奏者 Bendik Giske、Iskra Strings Quartet 所属のバイオリン奏者,James Underwoodなど、脇を固める演奏陣も素晴らしいです。

 

 

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という感じの2023年トップ5アルバムでした。

もしかしたら見落としている作品もそこそこありそうですが…

 

音楽好きのお客様は、またご来店時に今年のベストアルバムを教えてください!

 

お客様の活躍

2023.12.08.

Posted on 12.08.23

学生時代から通ってくださっている現在フォトグラファーのお客様が、この度SPURデビューを飾りました。

 

 

デビュー作にして一気にSPURの誌面クオリティの最上位につけるような、素晴らしい作品です。

 

 

 

 

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これなんかシャンタル・アケルマンの『アンナの出会い』を彷彿とさせるような、ミニマルでストイックな様式美です。

 

彼は、来月号のGINZAでも誌面を担当しているようです。

 

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彼とは音楽や映画の話をよくしました。

僕が彼にクリクリで退廃的なスパイラルパーマをかけた時、「ジーザス&メリーチェインみたいだ」って喜んでくれたのを昨日のことのように覚えています。

 

ファッションっていうものは、多くの人が興味を持ち, ブランドやデザイナーに対する知識もそれなりにある方もそこそこはいると思いますが、音楽や映画に対してニッチな知識を持っていてファッション界で活躍しているような人物は、日本でもそんなに多くはいないと思います。

(ヨーロッパとかにはたくさんいると思いますが)

 

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上に例えでアケルマンの『アンナの出会い』を出しましたが、自分はそこそこオシャレな方だと思っている人でこの作品を観たことがある方はどれくらいいるでしょうか?

おそらくは、アケルマンに興味がある人なら、自分のことをオシャレだなんてそもそも思わない筈です。

もっと自分に対して謙虚な姿勢を持っていると思います。

その対象はアケルマンでなくても、好きな器作家だったり、好きな建築家だったり、そういう“ファッションだけではない”人達にとって様々なものがあると思います。

 

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彼が東京に行ってから、何年もの歳月が経ちますが、東京ではカットせず、いつも大阪に戻ってきた時にカットしに来てくれます。

「東京にはオシャレな美容室がたくさんあるのに、なぜ?」と思う方も多いかも知れません。

 

ですが、V:oltaは、東京にもない価値観を美容室として提案しているという自負も、僕にはあります。

もちろん大したものではないんですけど。

 

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それでも、彼のように、東京でも輝けるような感性を持っている方が、お客様としてV:oltaを選んで通ってくださり、そこで美容師とお客様という関係で趣味の話をしたり、お互いに教養や感性を切磋琢磨し合える環境で働けているということは、自分にとって何よりの財産になっています。

頑張って今のような店づくりをしてきて、本当に良かったと思えます。

 

日頃より顧客の皆さまには心より感謝いたしております。

まだ出会えていないお客様も、ご興味があればぜひ一度V:oltaへいらしてください!

 

 

イム君、メジャー誌デビューおめでとう!

これからの活躍を益々期待しています。

そして、日本のまだまだ世界とは差のあるモード感度を、より世界水準なものに高めてほしいと思っています!

Posted on 12.06.23

いつも当店のブログをご覧いただき、まことにありがとうございます。

 

現在、ミュージックビデオとストリートスナップの記事をほぼ毎日、もう10年は続けてきたのですが、そろそろ投稿をアップする頻度を下げ、毎日更新をやめたいと思います。

理由としましては、これはだいぶ前から思っていたことでもあるのですが、自分が本当に良いなと思うものが以前よりも少なくなったということです。

ちょっと微妙だなと思うものまで、毎日のノルマみたいに無理矢理アップしなくて良いのではないかと思いました。

僕自身のこだわりが益々めんどくさいものになっているのは間違いないです…

 

ということで、これからはもっと自由に伸び伸びと更新させていただきます。

一部のお客様からは、僕自身が普段思ったことや考えていることをもっと書いてほしいと言っていただいてるお声もあるので笑

僕もちょっと変わってるところがあるのかも知れないですが、僕のことに興味持ってくださる方は僕以上に変わってると思ってます笑

 

という感じで、よりパーソナル色の強いブログにしていければと思ってますので、それにご興味のある一部の特殊な方はぜひ今後ともチェックしてください!

 

どうぞよろしくお願いいたします。

 

Posted on 11.30.23

先日、仕事が早く終わったので、これは絶好のチャンスとばかりにシネヌーヴォで開催中の“ジャン・ユスターシュ映画祭”へ。

 

 

僕にとってのオールタイムベスト級映画『ママと娼婦』への布石となっているということで狙っていた作品『ナンバー・ゼロ』を観てきました。

 

 

タイトル、メチャかっこいい。

 

この作品は、ユスターシュの祖母であるオデット・ロベールの話を2つのキャメラ(通っぽく言ってみました)で撮影したドキュメンタリー作品。

 

当時のユスターシュは鬱状態に陥っており、もう自分には映画は撮れないのではないかと気に病んでいたそうです。

そんなユスターシュに、「一族誰かを主題にして映画を作ってみてはどうか?」という提案したのは、『豚』の共同制作者,ジャン・ミシェル=バルジョルでした。

 

語られるのは、オデットの半生、および彼女の曾祖父母から曾孫たちへいたる、六代にわたる一族の歴史です。

まあ、よく喋るおばあちゃんでした。

これは上沼恵美子さんもビックリ。

 

ユスターシュは当時、この作品を映画とみなして良いのかどうか、確信が持てなかったそうです。

なぜなら、この作品に似たものを見つけることができなかったから。

「『ナンバー・ゼロ』を作るつもりはなかった。単に悪に悩まされていて、その悪に対する反応がこの映画だった」とユスターシュは語っています。

そして、この映画で自身のルーツを見つめ直すきっかけになったのかどうかはわかりませんが、この後、『ママと娼婦』『ぼくの小さな恋人たち』という、自身の経験を強く反映させた映画史に残る素晴らしい作品を完成させました。

 

今回は、自分の休みとのタイミングがうまく合わず、他の日本初公開作品は観に行けませんでしたが、これを観れたことでひとまず満足しました。

ぜひBlu-ray化してほしいです!

 

ご興味のある方は、今週一杯まで映画祭が開催されていますので、ぜひシネヌーヴォに足を運んでみてください!