Posted on 03.08.23

先日のお休みはシネヌーヴォでクレール・ドゥニ監督の1994年の作品『パリ、18区、夜。』を観てきました。

 

 

 

ドゥニの昔の作品を観れる機会はあまりないので、今回のチャンスは絶対に逃すものかと思っておりました。

ちょうど僕が休みの月曜日に上映があってラッキーでした。

 

クレール・ドゥニは、ジャック・リヴェットやヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュなどの元で助監督としてキャリアを積みました。

 

ジャック・リヴェットの創り出す世界観も非常に独特で美しいものですが、今作のドゥニの作風はどちらかというとヴェンダースやジャームッシュからの影響が色濃く出ている作品だと感じました。

 

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本作の舞台となるパリ18区は芸術の街として有名です。

一方で、移民が多く住む町という一面もあります。

ストーリーは、実際にあった老女連続殺人事件を中心に、パリ18区移民の街の生々しい事情と暮らしを描く群像劇。

 

前半はうっとりするくらい色鮮やかでバチっと決まったフレームワーク、そして物事が暗転していく後半ではカメラも薄暗い色調へと陰を落としていきます。

 

音楽も良かったです。

ファッションや音楽にも詳しい人の撮る映画は、映し出すショットにもその感性が如実に現れています。

 

特に主演のカテリーナ・ゴルベワが素晴らしかったです。

 

 

 

僕もジム・ジャームッシュやクレール・ドゥニの撮る映像のように、魅力的なカルチャーの要素をヘアスタイルにおいてもっと表現できるように、腕を磨いていきたいです。

 

 

今作も上映されている、特集『フランス映画の女性パイオニアたち』は京都の出町座でも開催されていますので、ご興味のある方はぜひそちらにも足を運んでみてください!

PRODISM -sacai-

2023.03.08.

Posted on 03.08.23

そこまで強い興味もないのに、PRODISMのsacai特集号を買ってみました。

 

 

 

sacaiデザイナーの阿部千登勢さんは、ブランド立ち上げ前はCOMME des GARCONSでパタンナー/ニットウェアの企画を担当していた経歴を持っています。

 

sacaiは、当初は面白いニットを作るブランドという印象がありました。

ブランドの成長と共に手掛ける洋服の種類を増やし、今ではパリコレのsacaiのランウェイには世界中のバイヤーが集まる人気ブランドへと駆け上がりました。

 

阿部千登勢さんの旦那さんは、こちらもkolorを手掛けるファッションデザイナー, 阿部潤一さんです。

もともとはPPCMというブランドで業界からも注目されていました。

 

sacaiの洋服は、トレンドを捉えたセンスの良さの中に実験的でニッチな要素が入っています。

そのニッチさはもともと阿部千登勢さんが持ってた部分もあると思いますが、旦那さんである阿部潤一さんからの影響も少なからずあるのではないかなと感じています。

 

現代のモード界では、少し前にValentinoを復興させたピエールパオロ・ピッチョーリとマリア・グラツィア・キウリの男女コンビ(現在は解散、ピエールパオロのみ留任)や、現在もトレンドセッターの位置にいるJil Sanderを手掛けるルーシー&ルーク・メイヤー夫妻、一番最近ではPRADAにおけるラフ・シモンズを招聘してのミウッチャ・プラダとの協業体制など、デザイナー職に男女二人を置くブランドも珍しくありません。

 

ジェンダーの多様性が謳われている現在、こういうことを言うのもナンセンスかも知れないですが、ファッションやバランス感覚においてセンスの良い人は男性よりも女性の方が圧倒的に多いように思います。

でも、豊富な知識量など、突き詰めるタイプのオタク気質な人は逆に男性の方が多いです。

ここにおいても大事なのはそのバランス感覚で、その両方の要素がどれくらいの割合で配合されているかによって「玄人受けもしつつ売れる」領域が存在します。

(僕個人的には、玄人寄りであんまし売れないけどしっかり継続できているようなブランドの方が好きですが)

お互いの強みをハイブリットさせる男女共同デザインというのは、浮き沈みが激しいモード業界で成功し続ける為にも理に適った戦略だと思います。

 

 

僕はsacaiは昔何着か買ったことがありますが、以前とはニッチさが幾分薄まった(その分爆発的に売れるようになった訳ですが)ように思える最近のsacaiは個人的には買いたくなるようなブランドではなくなりました。

これだからオタク気質のメンズは扱いが難しいです。

 

という感じの、sacai及び最近のモード界のトレンドへの雑感でした。

本誌はお店に置いていますので、ご興味のある方は待ち時間などにぜひご覧くださいませ!

Posted on 03.02.23

長年の顧客様がわざわざ(朝日)新聞のコレクションレポートの切り抜き記事を持って来てくださりました。

 

 

 

ファッション関係を専門でやってるWWDのレポートよりも余程知的でしっかりとした記事でした。

 

最近のWWDは、わかり易さやエンタメ性に振れ過ぎてて、専門誌なのにライト層向けという訳のわからないことになっているように思えます。

 

読者に(それも読者のレベルを低く見積もって)寄り添うような記事を書くよりも、WWDを購読することで読者が鍛え上げらていくような特集や記事をもっと書いてほしいです。

 

僕の考えが古いのかも知れないですが…

Posted on 02.26.23

先日のお休みは、シネリーブル梅田でジョージア人の映画監督,オタール・イオセリアーニの『歌うつぐみがおりました』を観てきました。

 

 

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『歌うつぐみがおりました』  1970年     監督、オタール・イオセリアーニ

 

まず、邦題がなんともチャーミングです。

 

主人公のギアは、ティンパニー奏者。

しかし、何もせずにじっとただ待っていることが苦手なギアは、自身の楽器の出番の少ない演奏の合間にスルスルとホールを抜け出してナンパしに行ったり遊びに出かけたりと自由奔放な生き方をしています。

ですが、演奏フィナーレの出番までには(なんとかギリギリ)絶対に遅れないという変な真面目さを持っていたりするので、観ていて憎めないところがあります。

 

映像や脚本も、ジョージア流ヌーヴェルヴァーグという感じで、大変魅力的な作品でした。

 

イオセリアーニ監督は、故郷のジョージアで映画を撮り始め、その後、拠点をパリに移しました。

他のジョージア時代の作品ももっと観たいですし、パリで撮った作品もぜひ観てみたいです。

 

今回の映画祭を機に、Blu-rayが発売されればいいのですが…

素敵な映画を撮る監督さんなので、ご興味が湧いた方はぜひイオセリアーニ監督の作品をご覧になってみてください!

 

 

ヴァージル起用は理解できても、今回のファレル・ウィリアムス就任はさすがにルイ・ヴィトンの格的にもやりすぎではないかと思います。

 

 

 

オリンピックの総合演出で起用するとかなら楽しそうではありますが…

 

Get Lucky言うてる場合か。

 

 

hairstyles_vol.232

2023.02.18.

Posted on 02.18.23

style No,0232▪︎Cézanne▪︎セザンヌ▪︎

   

 

hair: Daisuke Nakata

 

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comment:

髪の毛のクセを活かした肩下のミディアムボブです。

毛先を単なる切りっぱなしではなく少しラフなパツっと感が出るようにカットすることで、飾りすぎないアンドロジナスなムードに仕上げています。

前髪もあえてクセを活かし無造作にスタイリングしています。

 

 

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styling:

ドライヤーで乾かしただけでコテやストレートアイロンは使用しておりません。

クセがある方は、ドライヤーの風を上から当てるように乾かします。

スタイリング剤も流行りのオイルやバーム等ではなくムースを使用して軽やかで自然な束間を出して仕上げています。

 

 

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【coordinate】contemporary , elegance, androgynous

Songs for Drella

2023.01.24.

Posted on 01.24.23

昨日のお休みは阪急電車に乗って塚口まで出向き、塚口サンサン劇場で上映されている映画『Songs for Drella』を観てきました。

 

 

塚口サンサン劇場は今回初めて行ったのですが、ローカルな駅にあるにも関わらずスクリーンも大きく立派で、とても素敵な映画館でした。

劇場の名前も良いし。

僕もV:oltaの店名を“堀江サンサン美容室”に改名したくなりました。

 

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本作『Songs for Drella』は、1990年に発表された音楽,映像作品の4K修復版。

元The Velvet Undergroundの二人の天才, ルー・リードとジョン・ケイルによる、1968年の決別以来21年ぶりに共演した無観客ライヴの記録映画となっております。

そして、『Songs for Drella』の“Drella”とは、The Velvet Undergroundを見出したポップアート界の天才, アンディ・ウォーホルを指します。

ウォーホル周辺のいわゆる“スーパースター”だったブルックリン出身の俳優,オンデュースによって考案されたそのあだ名は、おそろしいドラキュラと魅惑的なシンデレラを掛け合わせたものでした。

 

 

 

僕は、京都で開催されているアンディ・ウォーホル展には例え京都に行く予定があったとしてもついでに寄ろうとは考えないですが、この映画を観るためなら塚口まで喜んで出向くタイプの人間です。

そんな人間はこの共感万歳の時代に向いていないのは火を見るよりも明らかです。

 

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The Velvet Undergroundは、ニューヨーク生まれでシラキュース大学で詩人,デルモア・シュワルツの教えを受けたルー・リードと、イギリスはウェールズ生まれでクラシックと現代音楽を学ぶためにニューヨークにやってきたジョン・ケイルを中心に結成されました。

バンド名の由来はマイケル・リー著のSMなど性的なサブカルチャーを題材にした同名のペーパーバックから引用されました。

 

バンドはニューヨークのライブシーンで静かにその名を響かせるようになっていきます。

その評判を耳にして視察に駆けつけたのが、現代アート界のスターであったアンディ・ウォーホルでした。

ウォーホルは彼らの特異な才能をすぐに察知して、自らバンドのプロデュースに名乗りを挙げ、デビューアルバムのアートワークまで手掛けました。

そして1967年にデビューアルバム『The Velvet Underground & Nico』が発売されます。

しかし、当時では前衛的なそのアルバムはあまり売れませんでした。

別の問題として、バンドメンバー達も世間からアンディ・ウォーホルの愛玩物のような目で見られがちなことに対しても次第に反発を覚え、ルー・リードはウォーホルに決別を告げました。

同時にウォーホルが抱き合わせたニコとも決別した後、彼らは傑作セカンドアルバム『White Light/White Heat』を完成させます。

しかし、このアルバムのレコーディング中からリードとケイルはバンドの方向性について度々衝突するようになり、それはやがて感情的な対立となってしまいました。

ジョン・ケイルはこのアルバムを最後にバンドを去りました。

 

バンドはその後もアルバムを2枚リリースしますが、結局商業的には大きな成功を得ることなく1971年に解散してしまいます。

 

しかし皮肉なことに、この頃からヨーロッパを中心にThe Velvet Undergroundの人気は高まっていくことになります。

1972年には、リード, ケイル, ニコの3人による貴重なコンサートが開かれ、二人は久々に共演しました。

 

しかし、それ以降の二人はまた長くすれ違いの人生を歩みます。

そんな状況を変えたのがアンディ・ウォーホルの死でした。

 

ウォーホルの追悼会で久々に再会した二人は、共通の知人である画家のジュリアン・シュナーベルの提案もあってウォーホルを偲ぶ本作『Songs for Drella』の制作に向けて再び一緒に仕事をすることになりました。

 

説明が長くなってしまいましたが、これでもだいぶ端折った感じの(説明が下手ですみません)この作品が制作されるまでの経緯です。

 

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映像では、リードとケイルの間にはまだなんとなく関係のぎこちなさがあるのだろうなという微妙な緊張感が伝わってくるようでした。

 

 

同名アルバムの曲たちを通じてウォーホルとの関係や思い出が語られ、そしてそれはラストの“Hello It’s Me”へと紡がれていきます。

 

年齢を重ねた二人の姿もカッコ良すぎました。

ジョン・ケイルの衣装なんて、カール・ドライヤーの映画に出てくる登場人物のようです。

 

 

 

 

 

 

上でも少し書きましたが、The Velvet Undergroundのデビューアルバムは当時あまり売れませんでした。

ですが、そのアルバムを買った人はみんなバンドを始めたという逸話が後に残るくらい、作品は先進性があるものでした。

 

 

僕は思うのですが、それは成熟した今の時代においても同じなのじゃないでしょうか。

今の承認欲求全盛の時代において、当店がバズってるようじゃ、やはり本当に格好良いことはできていないのだと思います。

(実際バズってもないですし、思うほど格好良いことが現状できているという自信もそんなに無いんですけどね)

 

でも、当店にご来店いただいているお客様の中には、その時代に生きていればThe Velvet Undergroundのアルバムを買ったであろうなと思うような感性の方がたくさんいらっしゃいます。

僕は、そういった方々に認めてもらえること,選んでいただけることの方が、世間で人気が出たり商業的に成功するよりも余程大事です。

 

 

当初から通ってくださっている顧客様なら知っているかと思いますが、こんな当店でも当初はバズってしまっていた時期があったんです。

それは、僕の感性が未熟だったり技術不足だったりしたことで、自分の理想よりもその完成形が下回っていたからだと思います。

でも、それくらいの方が世間ではウケが良いんです。

 

今の場所に移転する際、店内を少し敷居が高く感じるくらい特別なものにしてもらいました。

引き渡していただく時に、内装を作っていただいた業者さんに「魂込めて作ったんで大切に使ってください」と仰っていただいたのを今も覚えています。そう言っていただけて身が引き締まる思いでした。

(今でも自分の技術は、この素晴らしい内装にまだまだ相応しくないレベルのものだと思っていますが、それでも移転する前とは比べ物にならないくらいには自分自身の技術もレベルアップしてきてると感じている部分もあります)

 

去年、NHKで特集されていた安藤忠雄さんのドキュメンタリーで、安藤さんが「今の建築物には魂が入っていない」と口にしたのを聞いた時、「自分たちのお店の内装には魂が入っているんだ」と思えて誇らしくなりました。

もちろんその空間に魂を与え続けるのは、そこで働く人とそこを訪れる人の感性や感情が大切だとも思っています。

 

これは大した話じゃないんですけど、でもちょっと自慢にできることでもあるし、別に僕だけ喜んでおけばよいので特にここでも書かなかったことなんですが、当店の取引先の方で安藤忠雄さんとお話しする機会があったという方が教えてくれたエピソードです。

その会話中、仕事の話になって安藤さんに「どんなところを担当してるの?」と聞かれた時に幾つかピックアップしてくれたお店の中に当店を選んでくださったみたいなのですが、当店のページを見せた時に「ここええやん!」と当店を褒めてくださったらしいです。

 

巨匠に褒めていただいて、僕も嬉しいです。

でも、美容室の中では、わかってくださる方には評価していただけることをやっている(目指している)自負は持っているつもりです。

 

まだまだ日本人は欧米の人の感性や考え方と比べると未熟な部分があると思っています。

V:oltaは、美容室という形式を通じて、日本人の感性を少しでも豊かにするようなことができたら、という密かな思いを持っています。

 

その為には、自分が一番頑張らないと、ということも重々承知しているので、これからも必死に頑張っていきます!

 

もう最後の方はヴェルヴェッツもウォーホルも全く関係のない話になってしまってすみません。

最後まで読んでくださってありがとうございます!

 

 

best movie of 2022

2022.12.28.

Posted on 12.28.22

先日書かせていただいた年間ベストアルバムに続いて、年間ベスト映画も一応発表させていただこうと思います。

あくまで僕自身が今年観た映画の中でのランキングですので、新作旧作はもちろん、視聴環境も映画館と自宅どちらも混合でのランキングです。

 

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【10th】

テンギズ・アブラゼ   『懺悔』(1984年)

 

旧ソ連時代のジョージア出身の映画監督、テンギズ・アブラゼによる“祈り三部作”の最終章。

スターリン時代の恐怖政治の暗部を鋭く描いた喜劇。

 

上の写真の本作の独裁者が、もう夢にも出てきそうなくらいの強烈キャラでした。

 

反体制を訴えかけるシンボリズムと、独特のツボを持ったシュールレアリスムの調和。

室内のカットは、インテリアの調度や色遣いなど、ブレッソン映画のような格調の高さを感じました。

 

本作は、ゴルバチョフによるペレストロイカの前に制作されたもので、その体制批判的な内容から上映禁止となり、フィルムも廃棄寸前となりました。

エンドロールに「グルジア・フィルム、1984年」とありましたが、あえて年号を制作会社と共に明記させているところに、関係者の思いを感じずにはいられません。

当時のソ連において、本作が公開されるとは誰も期待していなかったのでしょう。

 

本作は、1987年にソ連でも公開されました。

そこにはジョージア人のソ連外相, シェヴァルドナゼ氏の大きな努力があったと言います。

 

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【9th】

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー   『マリア・ブラウンの結婚』

 

『第三世代』もそうでしたが、本作も冒頭のクレジットからバチバチにカッコイイ。

ファスビンダーの作品は、いつも「何を見せてくれるんだろう」とワクワクします。

戦争により、結婚式の翌日から引き裂かれる二人の運命。

 

これがファスビンダー流“フェミニズム”なのか。

バーのホステスからのマリア・ブラウンの成り上がりっぷりが狂ってて面白い。

爆破で始まり、爆破でおわるラストもお見事。

 

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【8th】

マノエル・ド・オリヴェイラ    『神曲』 (1991年)

 

今年、ある香水を買ったことをきっかけにダンテの『神曲』を読んだのですが、どうせならオリヴェイラのこちらも今年中に観ようと思いました。

 

オリヴェイラの描く『神曲』は、ダンテとは全然違います。

 

舞台となるのは精神病棟。

冒頭、旧約聖書の有名なアダムとイヴの場面から始まります。

 

ドストエフスキーの小説の登場人物の名前に準えた役者達。

キャスト達の豪奢な衣装、ここは本当に精神病棟なのか?

そのセリフは劇中劇として用意されたものなのか、それともよりリアルなものなのか。

 

キリスト教、ドストエフスキー、ニーチェなど、日本人がこの映画をより理解する為にはそのあたりの知識がそれなりに必要かも知れないです。

僕もドストエフスキー作品は買って手元にあるのに、なかなか途中までしか読めていない浅学非才の身ですが、それでも傑作だと思える作品でした。

 

崇高な芸術性を存分に発揮しつつ、観るものに問いかけているようで、ラストの“カチンコ”で「これは所詮映画なのだ」と自らオチをつけるオリヴェイラ。

凄すぎます。

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【7th】

タル・ベーラ    『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(2000年)

 

タル・ベーラの傑作、ここに在り。

 

ハンガリーの作家, クラスナホルカイ・ラースローの『抵抗の憂鬱』を映画化した作品。

145分の映画で、僅か37カット。

1カット毎、時間という概念, 映画という概念をまるで取り払ったかのような渾身の長回し。

厳格なモノクロの映像には、無駄なものは一切削ぎ落とされ、その結果、人間の姿が浮き彫りになる。

 

人間とは、どこから来て、どこへ向かうのか?

 

地球と月、和音と不協和音、土地の者と招かざる客、秩序と暴動、神とクジラ…

その間を媒介する主人公, ヤーノシュの生きる姿。

 

そしてこの物語をファンタジーかのように錯覚させるヴィーグ・ミーハイによる幽玄で甘美な音楽。

尋常ではない長回しでも、眠くならないどころか、むしろ逆にその映像に引き込まれました。

 

 

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【6th】

エリック・ロメール    『恋の秋』(1998)

 

エリック・ロメールによる“四季の物語”、そのラストに描くのは円熟味が出る40代の大人の恋。

 

ロメールは何かと難しくなってくる不惑の恋でも、これほどまでに面白く描けるのですね。

 

サッカーで例えると、自陣でのパス回しから相手陣地へと攻めていき、FWが相手DFを交わしてシュート!ボールがゴールキーパーの手の横をすり抜けてゴールネットにいざ突き刺さろうとする。

でも、ロメールはゴールネットを揺らすところまでは決して写さない。

その腹6分目加減が堪らない。

 

かと思えば、全てがハッピーで多幸感に包まれたエンディングのダンスシーンでイザベルが最後にみせる意味深な表情。

いかにもロメールらしい余韻のラストでした。

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【5th】

シャンタル・アケルマン    『私、あなた、彼、彼女』 (1974年)

 

 

撮影時24歳だったアケルマンによる、セルフポートレイト作。

 

後の『ジャンヌ・ディエルマン』へと繋がる、ある種アケルマンの原点とも言えるようなものがありました。

むしろ、本作の方が孤独感や閉塞感、そして本能や生命力といったプリミティヴな感性が強烈に伝わってきました。

 

荒く禍々しいモノクロ映像は、風で消えかけそうになっている魂の蝋燭のよう。

時折、画面が闇に消されてしまいそうになるくらい危なかしく感じるシーンもありましたが、その後に映し出されるラストの長回しは言葉では表せない圧倒的なものでした。

 

 

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【4th】

マルセル・アヌーン   『夏』 (1968年)

 

クラシック音楽が流れ、女性が走る。

これぞ僕が観たいヌーヴェルヴァーグです。

ゴダール映画のあの独特なナレーションは、アヌーンをパクっていたんだなということがわかりました。

(ほぼ同時期ですし、ゴダールはアヌーンの映画をサポートしてたくらいですが)

 

ぜひ日本各地の映画館でも上映してほしいですし、四季ボックスが発売されるなら10万までは余裕で出します。

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【3rd】

ジャン・ルーシュ     『人間ピラミッド』 (1961年)

 

 

シネマ・ヴェリテの創始者にして、映像人類学の巨人, ジャン・ルーシュによる、人種差別問題に切り込んだ実験映画。

 

オープニングの字幕

「この映画は、黒人と白人の青年グループの中に作家が喚起した実験である」

 

本作の舞台はコートジボワール。

フランスの植民地下にあった当時、現地では同じ学校に通ってる白人と黒人の学生達でも互いに交流はなかったと言います。

冒頭のシーンでルーシュは白人のグループを集め、これから撮ろうとする映画の実験的な意図を説明し、その後、同様の説明を黒人のグループにも行います。

 

生徒(登場人物)たちは、演技や会話だけでなく、本作におけるストーリーの展開においてまで即興に委ねるという趣旨を伝えられます。

但し、その中に監督の指示もいくつか入りますが、白人学生の誰かにレイシストを演じてもらうという指示以外は、こちらにはどこまでが監督の脚本なのかがわかりません。

でも、それが斬新な挑戦でとても面白かったです。

 

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【2nd】

ロベール・ブレッソン  『たぶん悪魔が』 (1977年)

 

 

ドストエフスキー最後の長編小説『カラマーゾフの兄弟』の一説から引用されたタイトルは、きっとブレッソンがこの世の有り様や人間達の愚かさに対して、嘆きとも言えない絶妙に微妙な感情で言い表したものでは無いかと思います。

耳を引き裂くようなパイプオルガンを調律する音、車のブレーキ音、そして日常そこら中にある協和融合しない生活音。

 

ブレッソンの映画は情報が極限までに削ぎ落とされているからこそ、自分達が日々聞こえているであろうそれらの音の異常さに改めて気付くことができます。

 

都会に住んでいると夜空の星の本当の美しさに気づくことができないのと同様、現代における日々が便利で忙し過ぎる故、この世の狂い様にも気がつきにくくなっているのだろうと思います。

 

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【1st.】

アンドレイ・タルコフスキー 『ストーカー』 (1979年)

 

 

タフコフスキーの映像詩は本当に素晴らしいです。

 

日本では、“ストーカー”は一般的に恋愛対象者への執拗な付き纏い行為のことを指しますが、もともとの意味は“密猟者”。そして、本作では地上に忽然と出現した不可解な空間「ゾーン」への案内人のことを指しています。

 

冒頭はセピアがかったモノクロ映像から始まり、「ゾーン」に侵入するとカラー映像へと変わる。

そのどれもが溜息が出るほどに美しい。

特に水の表現力は圧巻でした。

本作は、後に亡命するタルコフスキーからロシアの体制に対しての冷静でいて痛烈な批判が込められているのだろうと思います。

タフコフスキーの映画は、いつも自然が奇跡を起こしたような映像があります。

これは芸術に他ならない。

 

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ということで映画は10位まで紹介させていただきました。

そして結果的に新作映画はひとつも入らなかったです。

『TITAN/チタン』とか『英雄の証明』とか『リコリス・ピザ』とか、新作もちょくちょくは観てたんですけどね。

 

選んだものはレアな作品が多くなってしまいましたが、レンタルとかサブスクで観られる作品も中にはありますので、ご興味が沸いたという方はぜひ年末年始のお休みにでもご覧になってみてください!

 

僕は正月休みでドストエフスキーの小説を1冊は読み終えようと思っています。

 

長々と読んでいただき、ありがとうございました!

年度代表盤 2022

2022.12.27.

Posted on 12.27.22

今年も残り僅かとなりました。

毎年、新しい音楽は日々それなりにはチェックしているつもりですが、今年はいつもと比べると若い頃によく聴いたアルバムを聴き返したり、新譜のものでも気に入ったものは意識的に何度も聴き返したり、と一年を思い返すとそういう聴き方をしていた時間も多かったように感じます。

 

なので、ただでさえ何の箔も無い僕自身のベストアルバムなのに、今年は更に発表する程のものでもないと思っているのですが、自分の中での毎年の恒例行事みたいになっているし、むしろそんな時ほどちゃんと選定できる気もするので、一応今年も選びました。

 

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【3rd】

Lucrecia Dalt – ¡ay!

 

コロンビア生まれ、ベルリンを拠点に活動するアーティスト, Lucrecia Daltによるサード・アルバム。

今作でのヴォーカルはスペイン語。そして、サルサやボレロといったラテンのリズム。

元々の持ち味である繊細なアンビエントのエレクトロニクスとダークな世界観とラテンのフィジカルさが融合し、微睡みが心地良い夜に最適な作品でした。

 

 

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【2nd】

AMATEUR HOUR – Krökta Tankar Och Brända Vanor

 

スウェーデンはヨーテボリを拠点に活動するバンド, AMATEUR HOUR。

漂うヴェルヴェット・アンダーグラウンド感。

ドリーミーなインディ・ポップとノイジーなインダストリアルサウンドが妖しげに混ざり合う。

それはもう最高です。

 

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【1st.】

Kali Malone – Living Torch

 

こちらも拠点はスウェーデンのアーティスト。

米国出身, ストックホルムをベースに活動するドローン奏者, Kali Malone による2曲入りの新作。

アンビエントと現代音楽の境界線に佇んでいるような音楽。

トロンボーン、バスクラリネット、boîte à bourdon、Éliane RadigueのARP 2500シンセサイザーなどの電子音響アンサンブルで繋ぐサウンドは、ミニマルでクラシカル。素晴らしいです。

 

 

 

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今年はベスト3に絞って発表させていただきましたが、個人的に今年は上記の『Living Torch』のような落ち着いたアンビエント・ミュージックを聴くことが多かったです。

イーノ展もありましたしね。

 

また来年も素晴らしい音楽にたくさん出会えることを楽しみにしております!

味変

2022.12.08.

Posted on 12.08.22

大掃除のついでに、ディスプレイ棚をまた少し変えました。

 

 

 

当店のカルチャーにお詳しいお客様方なら、この棚にあるものの解答率がかなり高い方もたくさんいらっしゃるかと思います。

 

もし、何かわからないけど気になるのがあると言う方は、直接聞いてください!

 

冬の旅

2022.12.06.

Posted on 12.06.22

タイトルだけ見たら、どこか旅行へ行ったのかな、と思う方もいらっしゃるかと思いますが、僕が行ったのは梅田にあるシネリーブルで、このタイトルはアニエス・ヴァルダによる映画『冬の旅』のことです。

 

 

原題は『Sans toit ni loi』

直訳すれば「屋根もなく、法もなく」と言う意味になります。

 

ベルギーの映画監督,アニエス・ヴァルダによる1991年の作品。

 

本作の主人公は18歳の少女,モナ。

物語は、若い彼女の遺体が発見されたところから始まります。

 

 

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観るまでは『冬の旅』という邦題もいいなと思っていましたが、これは旅なんてもんじゃない。

生きるということを放棄しているかのような怠惰な女性の終わりなき放浪記。

 

傑作ドキュメンタリー作を多数遺したヴァルダですが、劇映画での視点も流石です。

 

自分はアリの如く働くので、怠け者の主人公には一切共感できなかったですが…

 

日本にもホームレスはいますが、それを選ばない選択肢があった方もたくさんいらっしゃると思います。

でも、彼ら彼女らは、自由と制約とを天秤にかけて、そして自由を選択したのです。

その結末が、他人にとってはとても哀れに見えるものでも、それを選択することも本人の自由なのだから。

ただ、いよいよと言うところまで追い詰められた時、その選択を後悔する人はどれくらいいるでしょうか。

それは、御馳走三昧の暮らしをしてきた裕福な人が取り返しのつかない大病を患った時に後悔するのと大して違いはないような気がします。

 

資産家のおばあちゃんと主人公が談笑するシーンがとても良かったです。

主人公に少しでも生に対して欲の気持ちがあれば、人生のレールに戻れるチャンスはいくつもあったのに。

 

感電のシーンとかも最高でした!

ヴァルダのユーモアのセンスは、ゴダールよりも数段優れています。

 

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話は変わりますが、先日、英国映画協会が10年ごとに発表している「史上最高の映画100」(全世界の映画関係者が投票しています)の最新版が発表されたのはご存知でしょうか?

https://www.bfi.org.uk/sight-and-sound/greatest-films-all-time

 

ここで選出されている作品の多くは、映画において特に芸術性が高いと評されているものが多いです。

古い映画も多いですが、それらは今の時代にこういう映画を作るのは、もはや無理だろうと思えるものがたくさんあります。

 

観たことない作品が多いけどキューブリックやデヴィッド・リンチあたりは好きだ、というくらいの感覚をお持ちの方なら、あとは白黒や長回し等に対する耐性さえつけば、どんどん映画の沼にハマっていけると思います。

 

僕は今、新潮で連載されている坂本龍一さん(以下教授)の連載を読んでいるのですが、東京大学で講義をした際、(大勢の希望者の中から厳選された)受講者の学生に一人ずつ自身の専門分野に関することと好きな映画について質問したらしいです。

皆自身の勉強している分野については立派に答えたそうですが、映画に関してはここで選出されているような作品を出した人はただ一人(ゴダールの映画を挙げたそうです)だったみたいです。

それを残念そうにしていました。

また、教授が韓国でイベントを開催した際、若い世代の子もたくさんサインを求めて来られたらしく、日本では全くそういうことがないのでビックリしたとも語っていました。

それだけ芸術寄りのカルチャーに興味を示すような日本人が減ってきているのだと思います。

 

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僕自身はあくまで自分のしていることはただのサービス業だと思っていますし、実際美容師はその名の通りのサービス業です。

ですが、その中にほんの僅かでも芸術性みたいなものを入れられたらなと思って、こうやって芸術映画とかも積極的に観たりする訳です。(もちろん、好きだから観てる部分の方が大きいのですが)

 

僕自身は個人のインスタグラムもやっていないくらい(お店のアカウントは作ってしまったので、なんとか頑張って続けています)インスタにはあまり大きな関心が持てないのですが、同じく美容師をされている方の中にはインスタを使って自身の担当したお客様とかを掲載している方もたくさんいらっしゃるかと思います。

それは全然良いのですが、そのアカウントのカテゴリを芸術/アートみたいなのを自ら選択されている方も少なくないように思います。

これはあくまで僕の個人的な考えですが、職業が美容師で自分の仕事を自ら芸術だと分類するには相当な技術と感性を持っている必要があると思いますし、それを掲げるなら最低でも僕なんかよりもこういった芸術映画にも関心を示してほしいなと思ったりします。

そうじゃないと本当に芸術を理解しているような人達からは、美容師自体がいつまで経っても安っぽく見られてしまうと思うので。

大したことない奴が偉そうなことを言ってスミマセン。

 

あ、それとこちらのランキングは、上と少し違って世界480人の映画監督たちによるベスト100ですが、こちらには『冬の旅』が堂々ランクインしています!

https://www.bfi.org.uk/sight-and-sound/directors-100-greatest-films-all-time

 

二つのランキングで、1位がアケルマンの『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』とキューブリックの『2001年宇宙の旅』で違いがあるのも面白いです。
僕は20歳の頃なら『ジャンヌ・ディエルマン』を観ていたとしても、まだまだそれを理解できるくらいの知識がなかったので、『2001年』の方をフェイバリットにしていたかも知れないですが、今ならアケルマン作品の方がキューブリックよりも断然好きだと言えます。

僕自身もまだまだ未鑑賞の作品がたくさんあるので、これからの人生をこれらの作品と共に楽しみたいと思います。

 

映画にご興味が湧いてくださった方は、ぜひシネリーブルにも足を運んでみてください!

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2022.12.02.

Posted on 12.02.22

いつもV:oltaをご利用いただき、まことにありがとうございます。

 

今年も早いもので12月に入りました。

ワールドカップは所詮ニワカレベルのファンなので、1~2戦目までの日本戦は観ましたが、早朝のスペイン戦があった今日は目覚ましをいつも通り8時にセットして寝てました…

 

それにしても、日本代表凄いです。

朝起きて結果を見てビックリしました。

僕もアウトラインスレスレ、むしろはみ出しているくらいの位置からのカットを習得できるように頑張ります。

もし、実験台になっても良いという方は、ぜひお申し付けください。

 

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今週末のご予約は日曜日は埋まってきていますが、明日土曜日のご予約は今のところ空いておりますので、お時間のある方はぜひご予約くださいませ。

 

みなさまのご来店をスタッフ一同、心よりお待ちしております!

 

 

今週号のWWDを見てもわかるように、先週はモード界におけるビッグニュースが2つありました。

 

 

アレッサンドロ・ミケーレのGUCCI退任と、ラフ・シモンズのシグネチャーの終了という、どちらもどちらかというとネガティヴなニュースです。

 

まずアレッサンドロ・ミケーレの方から書きたいと思います。

ミケーレは今から約8年前にGUCCIのデザイナーに就任しましたが、GUCCIでの歴史は実はもっと前からで、トム・フォードがデザイナーだった頃から参加しています。

今の若い世代の方は知らない方も多いと思いますが、トム・フォード期のGUCCIは当時モード界で最も輝きを放っていたブランドのひとつでした。

(僕自身は着たいと思うタイプのクリエイションではなかったですが…)

トム・フォード退任後は何人かのデザイナーを経てフリーダ・ジャンニーニという女性が長期間デザイナーを務めましたが、トム・フォードの頃から比べる(比べるのは酷かも知れないですが)とモード界のトレンドセッターの位置からはかなり距離が離れてきてしまっていました。

そんなジリ貧な状況にあってGUCCIに更なる試練が降りかかります。

 

当時のGUCCIのCEOだったパトリツィオ・ディ・マルコと、デザイナーのフリーダがほぼ同時期に退任することになりました。

二人は公私ともにパートナーの関係にありました。

GUCCIは、フリーダが退任した後の後任デザイナーを決められないまま、とりあえず次のコレクションはメゾンのデザインチームに任せました。

そのコレクションでデザインチームを牽引し、クリエイションを統括した人物がアレッサンドロ・ミケーレでした。

そんな所詮デザインチームの一員という立場であるのに、GUCCIの世界観を根底からガラリと変えるようなことをしでかしたのです。

 

 

今、ジル・サンダーのデザイナーを夫婦で手掛けているルーシー・メイヤーも、ラフ・シモンズが退任した後のDIORをデザインチームで手掛けた際の中心人物の一人でしたが、そのコレクションは良くも悪くも「まずまず」なものでした。

DIORはその後、ピエールパオロ・ピッチョーリと共にヴァレンティノ復興の立役者となったマリア・グラツィア・キウリをヘッドデザイナーに招聘しました。

要するに(特にビッグメゾンであればある程に)、デザインチームが手掛けるコレクションとは多くの場合、後任デザイナーが決定するまでの“つなぎ”のような役割にしか過ぎないのです。

 

そんな“つなぎ”のタイミングで、ミケーレは一世一代の挑戦をしました。

そしてデザインチームが手掛けたそのコレクションは、モード界の話題を大いに攫うに値するものでした。

 

GUCCIはそのコレクションの2日後、アレッサンドロ・ミケーレのデザイナー就任を発表しました。

ミケーレがGUCCIで行った一番の大仕事は、実はデザイナーに就任する前に既に成し遂げていたのです。

ましてや、LVMHと双璧を成すケリング・グループの最高峰ブランド,GUCCIにおいてそれをしたのだから尚更凄いです。

 

その後、GUCCIの売り上げは飛躍的に向上しました。

そんなGUCCIを窮地からトレンドセッターの座にまで押し上げた功労者,ミケーレが退任するまでの事態になったのには、やはり昨今の資本主義が加速するモード界の事情があったみたいです。

 

GUCCIの売り上げ規模を大幅に伸ばしたミケーレでしたが、就任から年月が経過したここ最近は、その成長性が鈍化していました。

僕なんかは、売り上げが落ちている訳でもないし、クリエイションが錆びてきている訳でもないんだから、それで十分じゃないかと思ってしまうのですが、昨今のラグジュアリービジネスはそれでは満足できないみたいです。

僕はアメリカよりもヨーロッパの文化の方が好きなのですが、モードにおいてもヨーロッパは商業性よりも伝統や文化を大切にしているなと思うようなメゾンがたくさんありました。逆にアメリカは売れたら伝統や文化なんて何でも良いというようなビジネス色が強い印象です。

ですが、昨今のモード界はヨーロッパまで超資本主義になってしまいました。

それがとても残念です。

 

もうひとつのニュースであるラフ・シモンズのシグネチャー終了は、そういった時代の変化の中でネガティヴな影響を受けた事象のひとつだと思います。

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ラフ・シモンズがモード界に登場し、たちまち大きな話題を攫ったのが90年代後半でした。

 

 

僕なんかもまだ高校生の身でありながらも、必死でバイトしてラフの服を買っていました。

その後、一時期は日本にも直営店まであったほどでしたが、それも無くなり、そして今回の事態となりました。

クリス・ヴァン・アッシュのシグネチャーなんかもそうですが、コアなファッション好きをターゲットにするようなデザイナーズブランドは今の時代、とても厳しいのかも知れません。

 

大阪に阪急メンズ館ができた頃は、僕もよく洋服を見に行っていましたし、行けば自分と同じようなモードが好きそうな人をよく見かけました。

今では客層がガラリと変わってしまったと思います。

リック・オウエンスやアン・ドゥムルメステール、ハイダー・アッカーマンなど、コアなモードファンが好むようなブランドの取り扱いも無くなりました。

その変化が今のモード界の縮図でもあると思います。

 

ラフに関しては、ミウッチャ・プラダから直々のお誘いを受け、今はプラダのデザイナーとしても活躍しています。

カルバンクラインのデザイナー時代は、経営陣との衝突から、商業性を求められるラグジュアリーブランドにおいてのデザイナー職には心底嫌気が刺した様子でしたが、自身と考え方の近いミウッチャ・プラダの元での仕事には満足し、現在はやり甲斐を感じているようにも見えます。

今はそこに全力を尽くしたいからシグネチャーは一旦終了する、というような決断の上であれば良いのですが…

 

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今GUCCIやPRADAを買っている人の中にはデザイナーの名前も知らないという人も多いのではないかと思います。

それは今、オシャレなイメージが爆発的にマス化しているメゾン・マルジェラにおいても同様のことが言えると思います。むしろ今のマルジェラ購入層ではGUCCIやPRADAよりも酷い結果が出そうです。

そんな中でも本当にブランドやデザイナーのことを理解して、“モードな買い方”をされている方も中にはいるんですけどね。

 

僕はずっとアメリカ大陸を占領された先住民みたいな気持ちです。

 

長々と書いてしまいましたが、これが今のモード界に対する僕の率直な意見です。

どこのブランドのものか誰にでもわかるようなものを身につけるより、「それどこのですか?」って興味を持って聞いてもらえるような洋服を身につけている方が、僕は素敵だと思います。

 

ヘアデザインにおいても、そういう感覚を大切にしています。

今のようなマジョリティ全盛時代に、当店のようなお店を成立させていただいているのは、同じような感覚を持ってくださってる顧客様のおかげです。

本当に感謝しております。

 

ラフのシグネチャーは終わってしまいましたが、V:oltaは末長く続けられるようにより一層精進いたします。

いつもありがとうございます!

WWD JAPAN

2022.11.18.

Posted on 11.18.22

WWDの2023年春夏トレンドブックが届きました。

 

 

こんなにファッションのことも勉強しているのに(今の時代WWDを購読している美容師なんて全体の0.01%もいないのではないでしょうか。。)、巷のSNSインスパイア系オシャレ好きの若者達は全然当店を選んでくれません。

またこんなことを書くとそんな子達は益々来てくれなくなると思いますが。。

 

当店は、今となっては国民全体の0.01%いるかいないかというくらいマイノリティなものとなってしまった感性をお持ちの方々の為のサロンであれば、それで良いと思っていますし、そういう方々に支えられてなんとかこれまで時代に媚びることなく、道に逸れることなく、その姿勢を貫くことができています。

 

WWD JAPANで頑張ってらっしゃるみなさまも、本当はあまりミーハーなことはしたくないという熱い志を持った方々の集まりだと思うので、時代の変化に流され過ぎず、これからも素晴らしいモードの世界を知的に伝えていってほしいです。

 

先日、僕の書いているブログを読んでくださった(今は東京に転居された)お客様から、わざわざメールで連絡をいただきました。

その中で「伝わる人には伝わります」と書いてくださっていました。

本当にそこだと思っています。

 

伝わる人に「揺るがないな」と思ってもらえれば、それで良いです。

 

そういう自分達のしていることをわかってくださるような感性を持っていらっしゃる方をガッカリさせることだけはしたくない。

 

そんなことをしてしまえば、ただでさえ大したことのない自分達の価値なんて本当に何も無くなってしまいます。

そんなことをするくらいなら、お店なんて潰してしまった方がマジでマシです(ラップ風に言った訳ではない)。

 

なので、WWDを読んで、より一層精進いたします!

 

「なにも変えてはならない。すべてが違ったものとなるように」 by ロベール・ブレッソン

Posted on 10.29.22

今回初めて発売されたイギリスの音楽カルチャー誌,So Young MagazineのJapan Exclusive Issueと、ele-king別冊のVINYL GOES AROUND presents RARE GROOVE。

 

 

どちらも最近発売された2冊。

ファッション(服)で例えると、最先端のモードと、コアな服好きが通う古着屋さんみたいな特徴の2冊です。

カルチャーにおいては、最先端を追い続けること、膨大に存在する過去のシーンを網羅していくこと、そのどちらかだけでも十分に楽しいですが、僕は欲張りなのでその両方を嗜んでいます。

どちらもお店に置いていますので、ご興味のある方は待ち時間などにぜひご覧くださいませ!