gap PRESS vol.166

2022.05.19.

Posted on 05.19.22

gap PRESSの最新号が届きました。

今号は、2022-2023 秋冬 パリ・ロンドン特集号です。

 

 

表紙は、不死鳥のように蘇ったミウッチャ・プラダによるMIU MIUのコレクションのものです。

 

 

現在、Y2Kファッションというのがモード界のトレンドのひとつとなっています。

Y2Kファッションの大きなターゲットのひとつはZ世代です。

 

Z世代とは、概ね1990年代中盤から2010年代序盤に生まれた世代を指し、これらの人達は若い頃からインターネットやスマートフォン, SNSなどの環境に慣れ親しんで育っています。

そしてY2Kというのは、“Year 2000”の意味で、2000年代に流行したスタイルのことを指します。

 

Z世代の若者達は、今から20年前に流行っていたものなんて知らないから、当時流行したものを各ブランドのデザイナー達が現代的にアップデートさせて新しいスタイルとして生み出すことが、今また流行しています。

少し前に日本でも、今までのヨウジ・ヤマモトの購入層とは全く違うタイプの若者達の間でもヨウジ・ブームが起こりましたが、これも今まで全くヨウジにカスリもしなかったような人達がSNSなどでヨウジを着こなしている人達を見つけて、その独特のデザインがとても新鮮に映ったのだと思います。

 

このMIU MIUが発表したコレクションには、1990年代後半の日本のカルチャーも入っています。

当時の日本では、女子高生のファッションや生態というものに対する世間の注目度がとても高かったように思います。

制服のスカートのベルト部分を折ってたくし上げてミニスカート風にして、ルーズソックスを合わせるのが当時の“イケてる”女子高生を象徴するスタイルでした。

トップモデルとして世界で活躍した冨永愛さんは、高校3年生の時VOGUEの表紙を飾り,誌面で女子高生スタイルを披露しました。

 

当時を経験してきた世代の方なら、今シーズンのMIU MIUのファッションから当時の流行に紐ずくものを感じられる方が多いのではないでしょうか。

当時の女子高生は“ギャル”と呼ばれ、どちらかというと少し下品なイメージで浸透していましたが、このMIU MIUのスタイルはミニスカートを履いてても, ソックスの履き方がルーズであっても、とても上品なものに仕上がっています。

 

MIU MIUは元々、落ち着いた大人女性向けのスタイルを提案するPRADAに対して、若い世代に向けたフレッシュなスタイルを提案するミウッチャ・プラダのセカンドライン的な位置付けでした。

近年、日本でもA-Net系のブランドなどが苦戦を強いられているように、若い世代でも比較的ベーシックな大人寄りのスタイルを選ぶ傾向が世界的にも広がっていたので、MIU MIUのような立ち位置のブランドも提案するスタイルの舵取りに苦悩するところがあったのだと思います。

そんな中でミウッチャはPRADAをラフ・シモンズに任せ、自身は本格的にMIU MIUの再生に取り組みました。

今コレクションのような、若者カルチャーをインスピレーションにしたクリエイションは、MIU MIUというブランドのルーツに基づいたものであったとも思いました。

 

今はモードという言葉が至るところで簡単に使われていますが、モードというのは本来, こういったクリエイションを通じた一連のものごとに対して使われるべき言葉だと思っています。

 

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BALENCIAGA

 

 

防護ガラスに包まれた“スノードーム”のような空間で発表された今シーズンのコレクション。

現在のバレンシアガを指揮するデザイナーのデムナ・ヴァザリアはジョージア出身です。

今から10数年前、旧ソ連の小国ジョージアでは、ロシアとの間で「8月戦争」が起きました。

 

ジョージアという国は、黒海とカスピ海に挟まれた南コーカサスと呼ばれるエリアに位置し、かつて日本ではグルジアと呼ばれていました。ジョージアには、南オセチア自治州、アブハジア自治共和国という少数民族地域があり、両地域はロシアによるテコ入れを受け事実上の独立状態にありました。

2008年8月、ジョージアは無謀にも南オセチアを軍事的に奪還することを試みましたが、ロシア軍の返り討ちにあって敗北しました。これを受け、ロシアは南オセチアとアブハジアの独立を承認、両地域のジョージアからの分離がより一層決定的になってしまいました。

 

この度のロシア軍のウクライナ侵攻で、ウクライナの国民達が近隣国へ難民となって大きな不安を抱えながら避難していく姿を、デムナは過去に自国で起こった出来事と重ね合わせるところがあったのかも知れません。

 

今シーズンは、ジョルジオ・アルマーニが無音でショーを発表したり、デザイナー達の中にもウクライナの国旗の色である青と黄色の服を身につけてフィナーレで挨拶をする人が多くいたりと、それぞれの形で反戦のメッセージを伝えていましたが、デムナが行った今コレクションは、デザイナー自身の今の心境や世界に対する思いがより一層深く感じられました。

 

世界を代表するようなデザイナーズブランドのデザイナー(デムナはもともとヴェトモンを立ち上げた)とは、多くを語らなくともショーを通じて自身の考えというものを内包でき、そして玄人的な目を持ったファンやファッションジャーナリストに対しても自身のショーに強い興味と関心を持たせることができる人物だと思います。

 

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まだ2つのブランドしかピックアップしてないですが、もう疲れたので、今回はこれくらいで終わりとさせていただきます。

またモード好きのお客様は、ご来店時にお話ししましょう。

 

本誌はお店に置いていますので、ご来店時にぜひご覧くださいませ。