VOGUE ITALIA N.839
2020.08.07.
Posted on 08.07.20
イタリアンヴォーグの最新号が届きました。
いつもなら読むのに少し重たいくらいに感じる日本版のVOGUEも先月あたりからかなり薄くなったように感じましたが、この度届いたイタリア版のVOGUEも哀しいくらいに薄かったです、、
アパレル界は連日のように倒産やブランド休止などのニュースが発表されるように、コロナ禍においてかなり厳しい状況のところが多いのだと推測します。
僕は若い頃から、ファッション、特にモードというものに魅了されて、費やしてきたお金も決して少なくなかったですが、そこから得られたものは自分にとっては掛け替えのないくらい大きく、今の美容師の仕事において活かされている部分も多くあると思っています。
自分がモードに出会った頃は、ジャンポール・ゴルチエやヴィヴィアン・ウエストウッドといった世界観も独特で特徴的なファッションが人気で、当時は僕もそれらの服に憧れてよく買っていましたが、大人になるにつれてアントワープ系のデザイナーの洋服が好きで買うことが多くなったり、エディ・スリマンやニコラ・ジェスキエールなどの影響でメゾンを擁しているブランドも買うようになっていくのですが、それ以降は今現在まで好きなブランドは基本的にはあまり変わっていません。
ですが、マルタン・マルジェラはずっと好きだったブランドのひとつですが、近年はピタッと買わなくなりました。
あの象徴的な四つ打ちステッチも、ニッチなうちはその精神が気に入っていましたが、マルタンの精神が受け継がれたデザイナーズブランドから今のように皆が憧れを抱くようなラグジュアリーブランドに変貌を遂げると、自分のようなひねくれた考えの人間は、過去に気に入って買ったものでもステッチの目立つものは今は着たくないし、もし着るとしてもその時はステッチを切り落としてから着ることになると思います。(実際いくつかは既に切りました。切った後は内側のタグも無くなるので唯の無名の洋服です。ですが、本来はその方がマルジェラの精神に近いと思います)
モードという言葉は、現代ではあまりにも安易に使われていますが、もともとはとても複雑なものだと思っています。
例えばモードの本質の中には、愛好者それぞれのファッションに対する信念のようなものがあって、それは芯の部分はとてもしっかりとしているようで非常に繊細なものでもあります。
今の“メゾン・マルジェラ”が多くの人の憧れとなる一方で、最近マルジェラを知ったような人ならおそらくはそのほとんどの人が知らないであろうセバスチャン・ムニエというデザイナーが(これまたそれらの人の多くが知らないであろう)アン・ドゥムルメステールのデザイナーを退任するというアナウンスが先月発表されました。
アン・ドゥムルメステールも、個人的にずっと好きなブランドのひとつで、アンが一線を退いた後もその後任に就いたセバスチャンのクリエーションも気に入って買い続けていました。
セバスチャン・ムニエは、アン・ドゥムルメステールで働く前はメゾン・マルタン・マルジェラに10年在籍しており、あのマルタン・マルジェラの右腕とまで言われていた人物です。
セバスチャンは、アンが直々にスカウトしてメンズのヘッドデザイナーとして自身のブランドに招き入れました。
マルタン・マルジェラの才能により近いセバスチャンが手掛けるアン・ドゥムルメステールがブランドとしての継続が難航する一方で、マルジェラの精神が消え去ったメゾン・マルジェラが繁栄するというのは、現在の変わり果てたモード界のなんとも哀しい現状が映し出されています。
ドリス・ヴァン・ノッテンは、このコロナ禍において、今の加速的に商業化していくファッション界にこの危機を不幸中の契機として今一度ファッション業界のあり方を考え直そうと「ファッション業界への公開書簡」 を発表しました。
その公開書簡の内容は、商品在庫やサプライチェーンに無駄をなくすため販売時期やセール期間の見直し。さらに環境に対する責任あるファッションを、とファッションカレンダーの見直しなどにも言及し、今後は移動による廃棄量や“不必要な在庫”を減らし、デジタルショールームを駆使し、ファッションショーの在り方も考え直すべきだと訴えました。
僕は、ドリスもずっと好きで買い続けているブランドのひとつでもあるし、何より今回の提言に一票を投じたいとの思いで、給付金全額をドリスの洋服に投じました。
アンを含む、こういう時だからこそ応援したいし無くなってほしくないと思うブランドの服もそれなりに買いました。
自分の仕事もコロナの影響も少なからず出ているのですが、自分としてもこういう時だからこそ好きな服を着て、好きな音楽を聴いて、映画もサブスクサービスの中から選ぶのではなく今観たいと思う映画はブルーレイを買ってでも観て過ごしたいと強く思うようになりました。
本の内容は全く無視なことを書いてしまいましたが、これが今伝えたい気持ちです。
V:oltaも美容室の中では、今の共感バンザイの時代において、どんどん住む人が少なくなっていくような僻地をバチバチに整備し続けているような存在なんだと思います。
そんなニッチなお店ですが、このコロナ禍でご来店いただいたお客様方から、普段美容室のシャンプーとか使わない人がシャンプー買ってくださったり、トリートメントを追加で予約してくださったり、たくさんの暖かい応援のお言葉もかけてくださいました。
コロナでお店は本当に大変でしたが、今まで美容師をやってて一番良かったと思えたのも今回でした。
自分たちは本当に素晴らしいお客様に恵まれてて、だからこそこれから、もっと顧客様を大切にできる、思いやれる美容師にならないといけないと、そう強く思いました。
これからも応援してくださる気持ちに応え続けられるような美容室であれるように精進して参りますので、これからもV:oltaをどうぞよろしくお願いいたします。
最後に、本誌の中身も少しご紹介させていただきます。
お店に置いてますので、ご興味のある方はご来店時にぜひご覧ください。