Posted on 12.27.21

先日音楽の年間ベストを書いたことでタイピング・ハイ状態になっているので、僕の今年観た映画の中からも年間ベストをご紹介したいと思います。

と言っても新作は一切なく(ひとつ入れるとしたらアメリカン・ユートピア)、あくまで僕自身が今年中に観た過去の映画ばかりなので、どうぞご了承くださいませ。

原則として、一人の監督につき一つの作品という縛りを勝手に設定しています。

 

今回も老体に鞭打って、ドドンとbest15からいきたい所存であります。

 

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15th/ クシシュトフ・キエシロフスキ – トリコロール/赤の愛

 

フランス国旗の色である「青(青)・白(平等)・赤(博愛)」をテーマにした、トリコロール三部作の最終章。

 

それぞれの作品で、テーマとなる色が画面に多用されており、映像の色彩だけでも魅了されます。

本作のテーマは“博愛”

3部作とも今年観ましたが、僕はこの最終章が一番好きでした。

全ての作品に共通するワンシーンがあるのですが、完結編での見せ方の変化でも微笑ましい気持ちになりました。

 

来年こそは、部屋で眠らせている『デカローグ』シリーズにも手をつけていきたいです。

 

 

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14th/  ビクトル・エリセ – ミツバチのささやき

 

舞台は1940年、スペイン内戦が収束した直後のカスティーリャ地方の小さな村、姉イザベルと暮らす6歳の少女アナは、移動巡回映写で上映された『フランケンシュタイン』を観て怪物に興味を持ち、姉イザベルはアナに「あの怪物は本当は精霊で村の外れの一軒家に隠れている」と囁く。

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本作の主人公を演じた当時5~6才のアナは、撮影時これが映画のために作られたストーリーだという“虚像”と、実際の“現実”との区別が半ばついていない状態だったらしいです。

そんなアナにとっては半分ドキュメンタリーのような映画の後半で、本人が実際にフランケンシュタインに遭遇するというシーンは、あの名作『E.T.』の名シーンよりも遥かに感動しました。

究極のファンタジー的演出でもあり、物心つくかつかないかの純粋な心だからこその好奇心や恐怖心などの繊細な感情がストレートに表れた、アナにとってはまさしく“演技”ではなく“現実”の表情でした。

 

固定カメラでの映像も非常に美しかったです。

ラスト近くの、手の動きで繋がれるシークエンスもとても印象的で、素晴らしい余韻の残る作品でした。

 

 

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13th/  クロード・ランズマン – SHOAH

 

 

第二次世界大戦時のホロコーストのユダヤ人被害者,ナチス側の加害者, ナチスの手下となって生き残る道を選んだ者など、あらゆる立場で生き残った者達に証言インタビューを試みたドキュメンタリー作品。

反戦映画では、日本映画の『人間の條件』も観ました。

『SHOAH』は9時間27分ありますが、『人間の條件』はそれを僅かに超える9時間31分あります。

 

この人類が起こしてしまった残虐な歴史を繰り返さないように、どちらの作品も時代の教訓としてぜひ多くの人に観てほしいです。

 

 

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12th/ ジャック・ロジエ – アデュー・フィリピーヌ

 

ヌーヴェルヴァーグの傑作と謳われている本作。

DVDに付いていた蓮實さんの解説に「本作は、映画の存在を前提として撮られた映画ではない」とのことが書いてありました。

本当にその通りの映画でした。

今まで観た(大して観れてないですが)どのヌーヴェルヴァーグ作品よりもヌーヴェルヴァーグしてました。

 

自由で瑞々しく、そして軽やか。

 

 

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11th/  ケリー・ライカート – ミークス・カットオフ

 

今年はケリー・ライカート特集があったおかげで、彼女の主要作品を全部観ることができました。

どれも良い映画でした。

その中でもひとつ挙げるなら本作です。

果てしなく広がる荒野をただひたすら歩く女性達、その姿がなんとも叙情的で美しい。

 

ライカート作品は、来年はじめにU-NEXTでも配信されるみたいなので、今回見逃したという方はそちらでもぜひご覧になってみてください!

 

 

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10th/  ルイス・ブニュエル – エル

 

40歳,童貞,金満,足フェチ男の、妻を愛し過ぎるが故の妄想と憎悪に塗れた狂気の嫉妬劇。

本作の主人公には自分を投影しているところがあると言っているくらい、ブニュエル自身もやはりヤバい奴なのでしょう。

だからこそ面白い。

 

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9th/ ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー – 不安は魂を食いつくす

 

ファスビンダーが撮ったメロドラマ。

メンタル弱男の僕からすれば、タイトルからして唯ならぬ共感を覚えます。

 

周囲から向けられる自分への態度の変化や疎外感による不安は、どれだけ必死に耐えてもやがて精神を根っこから折られるような感覚ではないかと思います。

インターネットの匿名性を武器に特定の人を叩くような現代人の行為は、もっと卑怯です。

 

インテリアの色使いや、扉越しの室外からのフレーミングなど、映像もとても美しいです。

数あるファスビンダー作品の中でも、かなり観やすい部類に入るのではないでしょうか。

「幸せが楽しいとは限らない」

 

 

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8th/  オリヴィエ・アサイヤス – 冷たい水

 

アサイヤスの自伝的作品。

自分が観てきた(と言ってもそんなに多くはない)青春映画の中でもトップクラスに好きな作品でした。

35mmフィルムで撮られた魅力的な映像の質感と、忙しなく動くカメラワークが、10代の危うさや衝動を見事に表していました。

但し、自分にもし娘がいて、こんな男と付き合ってたらブチ切れると思います。

 

 

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7th/ ヴィム・ヴェンダース – 夢の涯てまでも

 

これは先日映画館で観てレビューを書いたところなので、詳しくはそちらを見てください。

ヴェンダースの映画は映像も音楽も、全て素晴らしいです。

オルタナティヴ・ロックとか好きで、まだヴェンダースを観たことがないという方は、ぜひ一度ご覧になってみてください。

きっと感性が合うはずです。

 

 

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6th/  ミヒャエル・ハネケ – セブンス・コンチネント

 

タイトルの“セブンス・コンチネント”は「第7の大陸」の意。
とても秀逸なネーミングセンスのデビュー作です。

ハネケのヤバさの本質は、『ファニーゲーム』よりも本作に現れていると思います。

映像の質感も、新しいものよりも初期の頃のものが好きです。

 

現代の人間は日常のとるべき行動に支配され、全てを破壊していく後半は「人間にとっての“浄化行為”」とまで表現するハネケは、知的ですが心底狂っています。

 

 

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5th/  シャンタル・アケルマン – ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン

 

これはカンヌ映画祭の女性監督特集で日本でも再上映され、映画館で観ることができました。

主人公ジャンヌ・ディエルマンの3日間を3時間を超える長尺にて描いた作品。

当時カンヌに衝撃を与えたというだけあって、もの凄い映画でした。

ほぼ室内での映像で、カメラは固定され、役者の行動の省略を一切省いたかのような、まるで監視映像を観ているかのような長回し。

でも、不思議と全然観ていられます。

むしろ興味深く凝視するくらいでした。

 

ラストの長く静か過ぎるシークエンスも素晴らしかったです。

 

 

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4th/  アンドレイ・タルコフスキー – 鏡

 

タルコフスキーの自伝的作品。

作者自身の過去の記憶のイマージュや当時のロシア社会の暮らしの様子が時間軸を行き来しながら断片的に構成され、かなり難解な作品ですが、素晴らしい作品だと思いました。

 

冒頭の風が吹き抜ける奇跡のようなシーンだけでも鳥肌ものでした。

ラストで流れる“マタイ受難曲”もマジ良かったです。

 

 

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3rd/  エリック・ロメール – モード家の一夜

 

エリック・ロメールは作品を観る度に、その面白さに引き込まれていっています。

今年も一作ごと噛み締めるように、いくつかの作品を鑑賞しましたが、その中でひとつ挙げるなら本作です。

 

ブレーズ・パスカルの生誕の地、オーヴェルニュ地方の都市クレルモン=フェランを舞台に、カトリック教徒で堅物の主人公と、彼が心惹かれた二人の女性との物語を描いています。

 

パスカル哲学やキリスト教にそこまで詳しくない(今頑張って勉強中です)自分でも十分楽しめる会話劇でした。

カラーも使えた時代にあえてモノクロで撮影された映像は、ヴォルヴィック産の溶岩石で建てられたグレーの家が並んだモノトーンの景観をより美しく見せる為のもの。

派手な色の看板はどけられ、室内は壁紙からインテリア、登場人物の服装まで白黒に統一するという徹底ぶり。

 

知性と教養を備え、女性の繊細な恋心から人間らしい煩悩や猥雑さも描くことができ、色使いやファッションのセンスも良く、挙げ句の果ては抜群のユーモア性も持ち合わせる男、エリック・ロメールの右に出るような人物は今後の映画界でも出てこないのではないでしょうか。

 

 

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2nd/  ロベール・ブレッソン – 白夜

 

『やさしい女』のレビューでも書きましたが、僕はブレッソン作品は(もちろんモノクロも素晴らしいですが)カラーの方がより魅力を感じています。

そして、パリの街並みをこれほどまでに美しく映し出している作品は観たことがありません。

ポンヌフ橋を舞台にした作品では、カラックスの『ポンヌフの恋人』も名作ですが、本作はそれをも上回る映像美でした。

端正でいて、妖艶。

あえて全てを写さないフレーミングや、映像のカラーリングなど、そのセンスにはうっとりゆえの溜息さえも出ないくらいに素晴らしかったです。

 

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1st/  ジャン・ユスターシュ – ママと娼婦

 

本作が今まで観てきた映画の中で、個人的にはナンバーワンです。

 

ブティックを経営する自立した年上女性のマリーと、性に開放的な若き女性ヴェロニカ、そして定職にもつかずマリーの家に転がり込んでいる身でありながらヴェロニカをナンパする主人公アレクサンドルの奇妙な三角関係。

そして言い得て妙なタイトル『ママと娼婦』

登場人物を映す35mmを使用したカメラは気張ってる感じが全くなくリアリティがあり、それでいて映像は抜群に素晴らしい。

5月革命直後のフランスの空気感を、220分のうちの大半を室内シーンに費やして映し出す。その構成のセンスにも痺れます。

 

音楽界などでは自殺してしまった才能あるアーティストは少なくないですが、映画界ではあまりいないと思います。

ユスターシュが自殺してしまったのは大変残念なことですが、それくらいギリギリの感性と才能を持った監督が遺した作品を観ることができるというのは、イチ映画ファンの僕にとっても最高の体験をさせてもらいましたし、ユスターシュのことを心から尊敬いたします。

 

 

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自分は食べ物を食べる時は一番好きなものを最後に残すタイプなのですが、こうやってみてみると映画に関しては割と観たいものから観てるなと思います。

そして、今年のbest 3はそのままオールタイムベストになりました。

 

音楽はここ10年くらいは、最新のインディミュージックをメインで聴いてるのに、映画は最近古いものばかり漁っています。

音楽でも、Joy DivisionやTalking Heads, The Velvet Undergroundなど、前の時代の素晴らしい音楽に出逢いだした頃は夢中になって過去の音楽を掘りましたが、今僕は映画で同じことをしています。

 

これまでヌーヴェルヴァーグなどを大して観てこなかったのは、そもそもそこまで辿り着いてなかったのもありますし、多分当時の自分が観ても(今以上に)あまりうまく理解できていなかったと思います。

年齢を重ねていく中で、こんな僕でも少しずつですが知識や教養を身につけていこうとする中で、徐々にエスプリの効いた作品も理解できるようになってきたのだと思います。

 

僕自身も、より一層エスプリの効いたカット(笑)ができるように頑張ります!

 

紹介した作品にご興味の湧いてくださった方は、正月休みの間にでもぜひご覧になってみてください!