Posted on 05.28.13

観て来ました!


“The New York Times”の伝説のカメラマン,ビル・カニンガムのドキュメンタリー映画。


海外では、2010年に上映された映画ですが、3年経ってようやく日本でも上映されました!


ビルは、VOGUEアメリカ編集長アナ・ウィンターをして「私たちはビルのために毎日、服を着るのよ」と言わしめるほどの人物。



ニューヨークの ストリートでファッションを撮り続けて50年。

齢80歳を超えてなお現役で活躍し続けているビル・カニンガム。

愛用のカメラは、ニコン。


ニューヨーク中を自転車で駆け抜けて“ニューヨークの今”を切り取っている彼の生活は、彼が被写体にする人物とは対照的でとても質素なもの。


カーネギー・ホールの階上にある古いスタジオが彼の住処。

風呂もトイレも共同の狭い部屋の中には、写真が収納してあるキャビネットがズラリと並んでいる。

同じ階には、アンディ・ウォーホルなどのポートレイトで有名な写真家,エディッタ・シャーマンも居を構えている。


撮影のカメラが彼女の部屋に入った時、彼女は「これ(ウォーホルのポートレイト)は写さないで」と注意する。

そしたらビルは「何言ってるんだ。写させてやれよ、ウォーホルだぞ!」と言う。


二人はお互いの形でアンディ・ウォーホルをリスペクトしているのである。


彼の代名詞とも言えるブルーの上着は、清掃作業員のユニフォームらしい。

「カメラで生地が擦れるから、丈夫で良いんだ。」と言う。

雨ガッパなんて、破れたところをダクトテープで貼付けて補修して着続けている。


食にも興味がなく、「コーヒーは安いほど良い」と言う。


しかしファッションとなれば、某メゾンがパリコレで発表した新作の服でも、過去にあったものの真似をしたデザインならすぐさま見抜いてしまうほどに、ファッションを理解している。


自分は着飾らないのに、である。


そんな人は見たことがない。


普通、ファッションに魅了されているような人なら「自分も(そういう服を)着たい」と思う。

ランウェイのフロント・ローに座るような人物なら尚更である。


しかし、彼は『そんな感覚』を超越している。

自分のファッションをあれこれ考える時間があるなら、その分、街へ繰り出してスナップを撮りたいと考えるのだろう。


ビルは、「セレブだから」とか「ファッション界のビッグネームだから」といった安易な考えでシャッターを切らない。

たとえアナ・ウィンターが通ろうとも、彼の中で“撮るに値しないファッション”であったなら悠然とカメラを下ろすのである。


このあたりもただのパパラッチとは全然違う。


逆に“美しい”ものを見つけて、慌ただしくシャッターを切るビルの表情は、動物園に初めて連れてきてもらった少年のように純粋で無邪気である。



会場の壁にヒビが入ってしまいそうなくらい張りつめたパリコレの舞台で、ビルの存在がどれほど多くのデザイナーの緊張を緩和したことか…ビルの仕事ぶりをみていると、そんなことが頭をよぎりました。


ビル本人が語る言葉はどれも印象深いものでした。


ファッションについてのインタビューで、彼はこう語ってました。

「ファッションというものに否定的な声もあります。『混乱を極め問題が山積みの社会の中で、ファッションが何の役に立つ?』と。しかし、要するにファッションとは『人々が社会の中で、日々を生き抜く為の鎧』なんだ。それを手放せば文明を捨てたも同然だ。僕は、そう思う。」


フランス文化省から芸術文化勲章オフィシエを受勲された時のスピーチでは、こう語っています。

「美を追い求めるものは、必ず美を見出す」


と、言葉を並べるのは簡単ですが、自分は実際これらの言葉が発せられた時のビルの表情や、その言葉の背景にあるものをぜひこの映画を通じて多くの人に感じてもらいたいと思います。


『ビル・カニンガム&ニューヨーク』は、ファッション映画としてだけではなく、“映画”として素晴らしいと感じました。


大阪でこの上映しているのは、イーマの上にある梅田ブルク7のみ。

平日ということもあってか、自分が観た時間に映画を観に来てたのは15人くらいとガラガラでした。


せっかくこんなに素晴らしい映画が日本でも公開されてるのに、もっと多くの人が入るのがこの映画にはふさわしいと思います。



映画のラストでは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコの“アイル・ビー・ユア・ミラー”という曲が流れます。


自分なんかは、この曲が好きなので、イントロがかかった瞬間にニコのアンニュイなヴォーカルが待ち遠しくなるのですが、イントロ部分のループでジラされてなかなか歌が始まりません。

ヴォーカルが入ると同時にエンド・ロールが流れました。


ちなみに“ヴェルヴェット・アンダーグラウンド”(以下、ヴェルヴェッツ)は、アンディ・ウォーホルに見出されたアーティストで、そういった意味でもこの映画と関連性を持たせてると思うのですが、アンディがヴェルヴェッツを発掘した当時、既にバンドは完成されたものでしたが、アンディは自身がプロディースしていたアーティストであるニコを半ば強引にヴェルヴェッツの作品に参加させました。

1967年にリリースされたヴェルヴェッツの1st アルバム『Velvet Underground & Nico』で、彼女がメイン・ヴォーカルを務めたのは結局3曲のみ。

その後ヴェルヴェッツとニコは、二度と組むことはありませんでした。

(まるでビル・カニンガムとW.W.Dみたいです)


“I’ll Be Your Mirror”は、個人的に好きな曲です。


そして、この曲はこんなフレーズで歌い出されます。


‘I’ll be your mirror, Reflect what you are, in case you don’t know~’

(僕が君を写し出そう、君は自分の美しさを知らないといけないから)


ビルにピッタリな曲です。


ファッション好きの方はもちろん、そうじゃない方にもこの映画をオススメします。

みなさま、ぜひご覧になってみてください。


きっと素晴らしい感動を得れると思います。


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The Velvet Underground & Nico – I’ll be your Mirror