ブライアン・イーノで昼食を
2022.06.09.
Posted on 06.09.22
ロメールの『夏物語』を観終えた僕は、自分の気持ちに甘えが出ないように、先に夕方に観る予定の映画,『私、君、彼、彼女』の席を購入してからテアトル梅田を後にして、JR大阪駅へと向かいました。
でも、この時でさえもまだこの後京都に向かうという決心が出来ずにいました。
結論の先送りです。
JR大阪駅についてからも、京都へ向かう新快速の時間が表示されている電光掲示板をしばらく眺めながら、改札口を越えられずにいました。
心の中で、10ラウンド目を戦い終えてもう次のラウンドに向かう気力を失ったボクサーを必死で勇気づけているセコンドみたいに「絶対に行ける」と自分に言い聞かせる為の時間です。
何たって今日の僕の予定は、テアトル梅田→京都(イーノ)→テアトル梅田のトリプルヘッダー過密日程です。
昔、阪神時代の故野村元監督が、弱小時代の阪神においての苦肉の策,“遠山葛西スペシャル”というのをやっていましたが、それを思い出します。
なんとか新快速に乗り込んだ後は思ってたよりも全然平気で、30分で京都に着きました。
まあ、30分で着くのはわかってたんですけどね。何しろ乗り物酔いとかも結構するので。
ということで京都に着いた僕は、お昼ご飯を食べた後、次の目的地『BRIAN ENO AMBIENT KYOTO』展へ。
僕が音楽を好きになって、割とメジャーなロックからポスト・ロックやニュー・ウェイヴ, そして電子音楽を聴き出す頃には、既に“アンビエント”というジャンルが確立されていました。
その“アンビエント・ミュージック”は、ブライアン・イーノによって提唱されました。
(イーノ自身もフランスの音楽家,エリック・サティの「家具の音楽」から影響を受けています)
Roxy Musicへの参加、ジョン・ケージやヴェルヴェッツ~クラウトロックやアフリカ音楽からの影響、アンビエント・ミュージックの提唱、No Waveとの出会いから “No New York”プロデュース、トーキングヘッズやデヴィッド・ボウイへのプロデュース、そして自身の音楽活動。
これらはコアな音楽リスナーなら強い関心を持ってきたであろう音楽やムーヴメントです。
イーノがどれほど早い段階でこれらの音楽が前衛的だったり興味深いものであると察知し、それを取り入れ、世間に広めてきたか。
ブライアン・イーノという存在が音楽やカルチャーに与えた影響というのは、音楽を知れば知る程、途轍もないものだとわかります。
しかも、上に挙げたような活動は、イーノの音楽活動の中でも代表的なものを抜粋しただけです。
更にイーノは、音楽だけではなくビジュアルアートなどの映像作品でも素晴らしい作品を数多く残しています。
(というか、むしろイーノは元々美術学校でビジュアルアートを学んでいました)
今回の『BRIAN ENO AMBIENT KYOTO』は、ブライアン・イーノの世界観を存分に体感できる、音と光の展覧会となっております。
会場は、京都中央信用金庫 旧厚生センター。
3階建ての建物の各部屋に、それぞれ異なるインスタレーションが展示されていました。
個人的に特に良かったのは、3Fの“The Ship”と1Fの“77 Million Paintings”です。
“The Ship”は、タイタニック号の沈没、第一次世界大戦、そして傲慢さとパラノイアの間を揺れ動き続ける人間をコンセプトの出発点とした作品です。
か細い光が暗闇の幾分かを照らしている程度の暗い部屋に、様々な形状のスピーカーが4面の壁に配され、そこから音楽が流れます。
スピーカーの種類をあえてバラバラで不均一なものにしたのは、音の質感にあえて変化を出す為らしいです。
“音のインスタレーション”とも言える音の立体的質感が素晴らしかったです。
ヴェルヴェッツのカヴァー曲「I’m set free」もより一層心に染み入りました。
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“77 Million Paintings”は、イーノが長い年月をかけて描いてきた絵画や撮りためてきた写真など、複数の画像をランダムに映し出し、ゆっくりと融合させ変化させ続けるヴィジュアルアート作品です。
その複合画像の組み合わせは、タイトル通り7700万通り。
映像と共に流れているアンビエント・サウンドも、幾つかの音のレイヤーを生成的に配合したもの。
例えば2本のカセットテープがあって、片方の長さが10分07秒(607秒)、もうひとつが12分11秒(731秒)だとすれば、これら2本のカセットが再び同期するだけでも443,717秒(約5日間)かかります。
イーノはひとつの音をループさせ、それを幾重かにレイヤーさせることで、今聴いている音というものも移り変わり続けるヴィジュアルアートと同様に「今この瞬間しか現れないもの(今を逃すと当分の間見れない組み合わせ)」を作り出しています。
どちらのインスタレーションも時間が許す限り、この場に留まっていたいと思うようなものでした。
イーノ・ショップでは、展覧会の図録と、イーノファンならお馴染みの『オブリーク・ストラテジーズ』を買ってきました。
この2つでも1万円以上したのですが、インバウンドの中国人みたいにこれ以外にももっと爆買いしとけば良かったと今になって少し後悔しています。
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僕が『BRIAN ENO AMBIENT KYOTO』に行ったのが月曜日で、ちょうどその次の日にDOMMUNEの生配信でイーノ特集をやってくれてたので(実に8時間!)、素晴らしい復習ができました。
この記事でもイーノのことを書くと、僕がかなりイーノに詳しい人物だと思う方がいらっしゃると思いますが、僕なんてイーノの知識レベルではまだまだビギナーに毛が生えたくらいだと思います。
エキスパートレベルはDOMMUNEに出演してたような人達で、僕なんかはその話を「なるほど」と聞いてるくらいですが、当店のお客様にはそのエキスパートレベルの人達の会話でも間違ったことを言ってたら気付けるくらいの中級レベルの方が5人以上はいらっしゃると思います。
自分自身もそういう方々から日々インプットさせていただいています。
お金をいただいてるのはこちらなのに、本当にいつも感謝しております。
僕も近日中にもう少しレベルを上げて、開催期間中にもう一度展覧会に行きたいと思っています。
ちなみに短期間でイーノのレベルを上げる為には、クラウトロックやノー・ウェイヴなど最初の方に書いたムーヴメントのこともそれなりに知っておく必要があります。
イーノの音楽は割と万人にも親しみやすいものだと思いますが、イーノのやってきたことを深く理解する為には音楽史における相当な知識だけでなく、文化人並みの教養も必要となります。
即ちビギナーとその上のレベルの間には、天と地ほどの距離があるように感じています。
ですが、それが理解できてくるほど楽しいことはありません。
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展覧会は夕方の映画に間に合うように出て、奥さんへのお土産に京都伊勢丹で麩饅頭を爆買いして大阪に帰りました。
次は夕方に観たアケルマンのことを書きます。
最後に、石野卓球が本展開催にあたり寄せたコメントが秀逸だったので、その言葉で締めさせていただきます。
「基本、イーノは いいのが 当たり前」
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気になる方は、DOMMUNEのアーカイヴも観てみてください!