KYOTOGRAPHIE, そしてアピチャッポン・ウィーラセタクン
2022.04.21.
Posted on 04.21.22
お気付きの方も多いかと思いますが、タイトルはスマパンの『メロンコリーそして終りのない悲しみ』的につけています。
ということで、今週のお休みを利用して久々に京都へ(もちろん一人で)行ってきました。
当初の目的は、KYOTOGRAPHIEを観に行くというものだったのですが、ついでに何かないかなと思って調べてたら出町座でアピチャッポン監督の『光りの墓』の上映がちょうどその日にあるということを知り、その上映時間が16:30なのでむしろそこから逆算してKYOTOGRAPHIEを回るスケジュールを組むことにしました。
さらに日頃、当店の精鋭揃いのお客様方から教えていただいてた喫茶店,パン屋,つけ麺屋,和菓子屋,フレグランスショップのオススメ店にもせっかくだから行こうと思って予定を組み立てたら、大手旅行会社のツアープランナーもビックリするような「レンタサイクルで巡る“超パンパン”日帰り京都旅」が出来上がってしまったのですが、なんとか無事に遂行してきました。
当日は朝早く起きて淀屋橋駅から京阪電車に乗って京都へ向かいました。
いつも電車に乗って遠くに向かう時に思うのは、「遠いところから来て下さってるお客様は、いつもこんなに時間をかけて通ってくださってるのか」ということです。
僕自身は、そもそも用事はなるべく自宅から自転車で行ける圏内(堀江から天王寺くらいまでは全然自転車で行きます)で終わらせることを最優先条件に考えてしまうタイプの人間なので、電車に乗ることも3ヶ月に1回もあるかないかの頻度だから、自分だったらわざわざ電車に乗って行く距離にある美容室に通うかと問われたら「行けたら行くわ」と言っていた友達が当日来る確率くらい非常に低いものになります。
ですが、ありがたいことに当店には大阪府外からもたくさんの方が通ってくださっています。
さすがに東京から来てくださってる方ともなると仕事のついでや帰省に合わせてという感じですが、名古屋からとかだと数名ですが髪の毛を切る為だけにわざわざ新幹線に乗ってまで通ってくださってる方もいらっしゃいます。
大阪に着いた足でお店に来てくださり、こちらが「この後、どこかに寄って帰るんですか?」と聞いても「いえ、もうそのまま帰ります」とおっしゃいます。
カットだけの為にカット代よりも遥かに高い交通費を支払って休みの日の貴重な時間も使ってはるばるご来店くださるのは、とても光栄なことです。
ですが本心を言えば、服屋さんとかハンバーガー屋さんにも立ち寄るとか、もうひとつ何か目的を入れてくだされば、僕が背負う十字架の重みも半分になるのになと思ったりもします。
それだけ自分の技術にまだまだ自信が持てないのです。
遠方から通ってくださってるお客様方、いつも本当にありがとうございます。
電車は、KYOTOGRAPHIEの開場時間の40分くらい前に到着するものを選びました。
まず、喫茶店でモーニングコーヒーを飲みたかったからです。
なんたって10時の開場時間以降は、売り出し中の若手芸人もビックリの怒濤のスケジュールが待ってるので、途中で呑気にお茶なんて飲んでる余裕はありません。
コーヒーが美味しいと聞いていた六曜社は、お店の雰囲気も味があってとても良かったです。
お店を構えている堀江界隈ではサードウェーブ・コーヒーを売りにするお店や、相変わらずスタバが人気ですが、個人的には濃い目のブレンドコーヒーを出してくれる落ち着いてて趣のあるお店が好きです。
前日に準備している時に、本を一冊持って行こうか悩んだのですが、きっと荷物も増えるだろうからと結局持っていくのをやめたのですが、こんなに居心地が良くてコーヒーも美味しいなら持ってくれば良かったと後悔したほど雰囲気の良いお店でした。
「ここにあと本さえあればエリック・ロメール気分になれるのに、手元にあるのがスマホじゃ、まるでギョーム・ブラック(宝島)じゃないか」と内心呟きました。
ギョーム・ブラックも良いんですけどね。
(もちろんコーヒーの写真なんて撮っていません)
と言っている間にギイブルダン展の時間になったので、京都文化博物館 別館へと向かいました。
ギイ・ブルダンは好きなファッション・カメラマンの一人だったので、知ってる写真がたくさん観れて良かったです。
会場は写真撮影OKということで、時折カシャカシャという音が聴こえてきたのですが、それはあまり気になりませんでしたが、一回インスタグラマーが使うような連写モードのカシャカシャ音が会場に響き渡った時は逆に面白いなと思いました。
こういうファッション写真やそれを観に来ている者に対するアンチテーゼの意味で、あえて連写モードで鳴らしたのかなと勘繰ったりしました。
その後、この辺りの別の会場を回り、パン屋にも寄りました。
ここで買ったパンも帰って食べたら、超絶美味しかったです。
【他に誰もいないのをいいことに、小津安二郎を意識してローアングルで撮った一枚】
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【イサベル・ムニョスがスペインで制作したプラチナプリントを京都で裁断し、糸に紡ぎ織り上げられた山口源兵衛作の帯】
(一部にはその枠を超えたものもあると思いますが)アニメなどの幼稚でエンタメ的なものではなく、こういうものを“クールジャパン”と呼ぶべきだと思います。
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その後に向かったのは、何必館で開催されているペンティ・サマラッティ展です。
こちらはKYOTOGRAPHIEのパスを持っていても別途1000円が必要になります。
そして、館内は一切撮影禁止です。
そんな映えらせられない事情もあってか、ここが一番空いていました。
(そして、決してインスタ映えするような作品でもありません)
ですが、個人的には今回京都に行って一番良かったと思えたのが、この展覧会でした。
あまりにも素晴らしかったので、まだこれから色々と回らないといけないのにも関わらず作品集まで買ってしまいました。
撮影が禁止だったことに配慮して、ここでも作品集の中の紹介はしないでおきます。
ご興味のある方は、お店に置いていますので、待ち時間などにぜひご覧くださいませ。
代わりにサラマッティ展を紹介している新聞の記事を載せておきます。
この後もアーヴィング・ペンとか観れるところは全て行きましたが、ここを上回る感動を得るところはありませんでした。
10年前の自分なら、ギイ・ブルダンやアーヴィング・ペンに狂喜乱舞していたと思いますし、美容師ならそれくらいの感性で止まっておくのが一番“オシャレ感”があって人気も出るのだと思いますが、自分はオシャレ感を出す為に観にきてるのではないですし、今のように自分の趣味趣向が変わったことは自分自身では本質というものに少し近づいた成果ではないかと好意的に感じています。
何より、より興味を惹かれるものが出てきた時に、それが何であれ無視することなどできず、徹底的に調べ上げたくなる性分です。
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自分は単なる一美容師なのですが、今ではその中でも“自分の役割”というものがあるということに気付けています。
僕自身、多くの人が手に入れたいと思うようなものにはあまり興味が湧きません。
自分がそうであるから、自分につくお客様というのも、やはり何か普通の感覚とは違うものを持った方が多いです。
そういった方は、「ベストヘアサロン」みたいな謳い文句のお店じゃ絶対に合わないんですね。
ファッションが好きでも、東京の真似事(失礼な言い方ですみません。東京などのオシャレ美容室の影響を受けているような、というマイルドな言い方にしても失礼だと思われたら重ね重ねすみません)をしているような美容室も、「モード」ではないんです。
自分はいたって普通の人間だと今でも思っているのですが、そういう感覚は世間では「変わり者」とみなされるようです。
僕自身は変わり者と思われようが、何ら気にせずに生きていけるのは、自分で自分が好きなお店ができていて、それを良いと思ってくださるお客様やスタッフがいてくれるからだと思います。
そういう意味ではとても幸運だったと思います。
でも、当店に通ってくださってるお客様には普段周りではそういう部分は共感されないという方も少なくありません。そういった方のほうが感性が優れているのに。
だから自分は、そういった悩みを抱えるお客様にとっても、納得のいく髪型を提供したいと強く思っています。
サマラッティの展覧会で“心創手追”という言葉がありました。
「“心”と“眼”が優れたものを発想し、手はそれに従い“技術”として必ず追ってくる」という意味です。
自分が見たり読んだりするもの。それらからどういう影響を受けたり感じるかによって、僕のカットは日々僅かに変化していくような不安定な部分があると思っています。
ですが、だからこそ他の人では出せない感覚を髪型の中に入れることができますし、それが自分が切った髪型の特徴にもなります。
何より、美容師としてのキャリアを積んできた今現在でも、自分のカットに納得できず、難しいと捉え続けることができているところに、大変ながらも面白さとやり甲斐を感じることができています。
そして、自分についてくださってるお客様は、そういう僅かな変化を感じ取れる方が少なくないと思っています。
だからこそ、自分自身も技術面だけでなく“心”や“眼”も休めることなく鍛えなければいけない。
半分は趣味、半分は仕事なのです。
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KYOTOGRAPHIEの会場の移動の途中で、お客様から教えてもらった香水屋さんにも行きました。
そのお客様も相当にコアな方で、この人が勧めるお店ならきっと面白い方がされているのだろうと思って行きましたが、いや流石でした。
店主さんお一人でされている小さなフレグランスショップでしたが、香りへの探究心がズバ抜けてるのはすぐにわかりました。
家電量販店でも、説明を聞いてるだけで「この人家電相当好きなんだろうな」と思う方がいらっしゃいますが、まさにあの感じです。
そしてセレクトされている香水も、とても魅力的なラインナップでした。
最初に好きな香りのタイプを聞かれたので、それに答えていくつか紹介してもらってたのですが、もう途中から好みの香りなんてどうでも良くなって、それぞれの香水のインスピレーションや作られた背景についての部分がとても興味深くて、結局ダンテの“神曲”を香りで表現したという香水を香りのテスティングもあまりしないままに買って帰りました。
なんたって僕には時間がなかったのですが、ここの香水屋さんはまた次回は時間に余裕を持って再度訪れたいです。
最後に店主さんに「きっかけは何だったのですか?」と尋ねたのですが、「高3の時に母に買ってもらったブルガリのプールオム・ブルーです」と何の恥ずかしげもなく、むしろ威風堂々と答えてくれました。
もうこの一言で、この人が相当レベルの人であることはわかります。
僕が中学時代に一番良く聴いてたのがB’zやZARDだったのを言えるようになったのはここ最近の話で、それでもそれを聞いた相手が全然笑ってくれないとまだ内心ちょっぴり恥ずかしくなります。
この時点で僕のリュックは、この日買った写真集やポストカード, 香水, パン, 焼き菓子,奥さんにお土産に頼まれてた麩饅頭などでパンパンになってて、ハンデ戦に出走したG1馬の背負う斤量くらいの重さに感じてて、朝の時点で「持ってくれば良かった」とかほざいていた本を持って来なくて心底良かったと思っていました。
まだ映画の話は書けてないのですが、美容師の書くブログの長さの域を遠に越してると思うので、またそれは記事を分けて書きたいと思います。
長文読んでいただき、ありがとうございました。