McQueen
2019.04.11.
Posted on 04.11.19
イギリスのファッションデザイナー、アレキサンダー・マックイーンのドキュメンタリー映画が公開されたので観てきました。
ロンドンの労働階級の居住エリアであるイーストエンドに6人兄弟の末っ子として産まれ、日々の生活にも困っていた青年,リー・アレキサンダー・マックイーンは人手不足で求人が出ていたサヴィル・ロウの門を叩き、いくつかのアトリエで経験を積んだ後、イギリスの名門セント・マーチンズに入学。
マックイーンの卒業コレクションは、当時VOGUEでエディターを務めていたイザベル・ブロウの目に留まり、彼女が全て購入しました。
マックイーンの名が業界に広く知られるきっかけを与えたのは、イザベル・ブロウでした。
23歳で失業保険から資金を捻出してファッションデザイナーとしてデビュー。
この時、自身の名を冠したブランド名に本来のファーストネームである「リー」ではなく、ミドルネームの「アレキサンダー」を使うようアドバイスしたのもイザベル・ブロウだったと言われています。
そして、ブランドは瞬く間に成功を収め、マックイーン自身はパリの老舗ブランドであるジバンシィからクリエイティヴ・ディレクターとして招き入れられます。
まるで昔のロックスターのような成り上がりストーリーですが、マックイーンというデザイナーは素晴らしいコレクションをいくつも生み出しましたが、まるで“観客を魅了するショーを自らの寿命と引き換えに手にすることができる”という契約を悪魔と結んだかのようにマックイーン自身は過密日程でコレクションをこなす度に見るからに疲弊していきました。
自身の名を冠したブランド,Alexander McQueenは、その後ラグジュアリー界大手のグッチ・グループに株式の半分を売却する契約が成立し、マックイーン自身も多大なる財産を手にしましたが、それでも自身の抱える闇に光が射すことはありませんでした。
2010年、母の死を知ったマックイーンは、自らも自殺という選択肢を選んでしまいます。
遺体発見の翌日は、母の葬儀の日でした。
享年40歳。
あまりに短すぎる生涯でした。
この映画は、青年マックイーンが類い稀な才能を発揮し、ファッション界の風雲児として昇り詰めるまでのストーリーが時に痛々しいほど赤裸々に収められています。
マックイーンほど観客に訴えかけるようなエモーショナルなショーを作り上げることができるデザイナーは、恐らくいないと思います。
モードは服で作る芸術作品だ、とファッション界の人はよく言いますが、マックイーンのショーこそ、その真骨頂のように思えます。
そういう圧倒的で高貴な感性というのは、育ちが良い芸術肌の人にほど備わりやすいものに思えますが、マックイーンのようなブルーカラーの層の人物にでも備わるのだな、と勇気をもらいました。
もちろん、本人の努力や才能もかなり必要だと思いますが、誰でもモード界の頂点に君臨することができる可能性があるのだ、ということをマックイーンは自身の身をもって体現させました。
この映画を観終えて、マックイーンの服に込めてきた情熱に改めて圧倒されました。
これから先、服を買いに行った時、「この服を作ったデザイナーはどれだけの思いをこの服に込めたのだろう」という考えが、今まで以上に高いハードルで僕を襲いそうです。
流行りのスタイルだからとか、着回ししやすそうだからとかで選ぶのも悪くないですし、ただ単純にデザインが好きだからというのも服を選ぶ上で至極真っ当な理由です。
ですが、そういう理由で選ばれるような服は、街に溢れています。
デザイナーや職人が、この服を通じて伝えたい、こういうふうに感じてほしい。というエネルギーが服や靴そのものから溢れ出してるような作品は、現在のファッション界においては本当に数少ないと思います。
僕は、今までもそういう基準で洋服を買いたいと思ってそれを実践していたつもりでしたが、この映画を観ると自分の基準というものがどれだけその本質がわかってつけた基準だったのかということを、そのいいかげんさを改めて痛感させられました。
これから服を買う時は、数を絞ってでももっと思い入れを持てる服を増やしていきたいと思います。
ファッション好きだけでなく、芸術や音楽などを好きな方にもぜひオススメしたい映画です。