Posted on 01.16.19

自分に子供ができてからというもの、映画館はもちろん、自宅のテレビで映画を観るという機会もなかなか取れなくなしたが、その代わりに僕の「観たい映画プロテクトリスト」は巨人軍のそれよりも精鋭揃いになって、今では映画を観れる貴重なタイミングを見つけてそのリストから選んで観ることが、とても格別な至福の時間になってきています。

 

そして先日観たのが、これも去年映画館で観たいと思いながら行けなかったポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『ファントム・スレッド』です。

 

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【あらすじ】

舞台は50年代第二次世界大戦後のロンドン。

完璧主義のオートクチュールの仕立て屋レイノルズ・ウッドコックはある日、若きウェイトレスのアルマと恋に落ちる。そして、彼女を新たなミューズへと迎い入れる…

仕事が生き甲斐で彼女をプライベートでは尊重しないレイノルズとそれに不満を募らせる強き女性アルマ。

格式高いオートクチュールの世界で繰り広げられるそれぞれの愛の理想形を巡っての心理戦が描かれる。

 

 

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【感想】

ポール・トーマス・アンダーソンの作品なので、ファッションの世界を舞台にしていながらも昨今人気のオシャレ系映画とは当然全く異なるものを作り上げているんだろうなと思っていましたが、いや本当に素晴らしく面白い映画でした。

 

この映画には特に3人の人物が圧倒的な仕事をしています。

監督のP.T.A.(ポール・トーマス・アンダーソン)、今回が引退作で1年前から裁縫師のもとで役作りを学んだという主演のダニエル・デイ=ルイス(最終的にはバレンシアガのドレスを複製できるくらいの腕になったらしいです!)、そして音楽を担当したRadioheadのジョニー・グリーンウッド。

他にもアルマ役の主演女優ヴィッキー・クリープス、レイノルズの姉シリル役のレスリー・マンヴィルの役柄もとても良かったですし、マーク・ブリッジスが担当した衣装もとても素晴らしかったです。

 

この映画は全体のムードとしてはとても格調高く作られているので、その落ち着いた雰囲気の中での音の演出効果や無言で語る役者の表情というのがとても見応えがあります。

 

しかし、一見ハイソ風に作っておきながら、マザコン,間接的DV,そしてスロッビング・グリッスルもクスリと笑いそうな主人公の名前「ウッドコック」など、随所に知的な下品さも散りばめられていて、最終的なオチもそれら伏線を回収というよりは雪だるま式に丸めてスーパー・アブノーマル・“元気玉”みたいなラストシーンに繋がっています。

カンヌでも通用するくらいのアーティスティックさを醸したり、自身が影響を受けた映画へのオマージュシーンを作中に入れたりする一方で、アメリカ人がゲラゲラ笑いそうな下品なネタもサラッと入れ込んでくるシュールさも持ち合わせているのが、P.T.A.がただの完璧主義者では終わらない彼の真骨頂であります。

 

ジョニー・グリーンウッドに関しては、既に世界的バンドRadioheadのトム・ヨークに次ぐ中心人物。

日本のお笑い界で言うところのダウンタウン的立ち位置に君臨しながらも、それでもなおそこで留めておくのは勿体無いと思えるくらい素晴らしい音響でした。

映画の冒頭で流れる程良く不快に感じる高音を聴いた時点で、もうしてやったり顔を浮かべるジョニーの顔が頭に浮かびました。

彼は日本のお笑い界で言えば立川談志、日本の音楽家で言うと坂本龍一になるべき人物です。

もしかしたらもう既にその領域に足どころか肩くらいまで浸かってるかも知れません…

だからフットボールアワーばりのしてやったり顔なんて実際のジョニーは絶対にしない筈です。

 

 

個人的には特に最後の料理のシーンがとても印象的で、やってることはイかれていますが最高に美しい2人の愛の完成形だったと思います。

僕はドンデン返し系の映画も好きでよく観ていた時期もありましたが、この映画は男女の心理的なパワーバランスが映画の中で相対的に変化していき、最終的には見事に入れ替わってしまいます。

 

 

普段、映画を良く観てる人ほど、面白く感じる映画ではないかと思います。

ご興味の湧いた方は、ぜひご覧になってみてください!