Maison Margiela Artisanal Collection 2024
2024.02.02.
Posted on 02.02.24
先日発表されたジョン・ガリアーノによるMaison Margielaの2024 アーティザナル・コレクションが素晴らしかったのでご紹介させていただこうと思います。
今でも神格化されるほどの創業者デザイナー,マルタン・マルジェラが去り、その意志を継ぐデザインチームによって継承されていたマルタンイズムの中に、ジョン・ガリアーノがクリエイティヴ・ディレクターとして加入したのが今から10年前の2014年。
それからモード界もメゾン・マルジェラも、そして世の中も大きく変貌しました。
今、日本においても、そのブランドを手掛けているデザイナーを知らないで洋服やバッグを買う層が以前に比べてかなり増しています。
大部分と言っても良いかも知れません。
街でもマルタンの名作,Tabiブーツや、その派生系みたいな靴を履いている方をよく見かけます。
それらの方の多くが、そのデザインが生まれた背景についてなんて知らないでしょうし、そもそもそこまで知りたいなんて思わないでしょう。
でもそれを自身が買ったことはSNSとかに載せている方も多くいると思いますし、それが“メゾン マルジェラ”の人気商品であることに購買意欲を増す方が多いのでしょう。
それはマルジェラだけじゃなく、もともとモードが好きな人しか買っていなかったであろうバレンシアガやセリーヌ,その他諸々のラグジュアリーブランドでも同じような現象が起きています。
モードの世界は、SNSの普及や資本主義社会の拡大によって、その価値観と美学を愛する人達が憧れる存在から、一気にマス層へと浸透していきました。
その弊害は色々なところに出てきています。
世の中も、人の思考も、とても薄っぺらいものになってきているなと感じます。
モード界さえも目先の売上に魂を売りました。
僕自身も以前よりもモードに対する興味は少し薄れ、限定的なものとなってきていましたが、そんな時に今回のガリアーノのショーを観て、「モードってこういうものだったよな」って久しぶりに思いました。
ガリアーノはもともと、Diorのデザイナーとして素晴らしいコレクションを発表していました。
現在、モード界にいる全てのデザイナーの中でガリアーノを超える才能を持つデザイナーがいるのか?と問われたら、そんなに多くの名前は挙がらないでしょう。
もしかしたらナンバーワンかも知れません。
ある日の夜、酔っ払った彼はユダヤ人を差別する発言をしてしまいました。
今のようにSNSの普及していない時代でしたが、その様子が記録された映像は関係者の目にも留まり、ガリアーノはDiorを解雇されました。
それから数年後、モードの世界から追放されて粛々と生きていたガリアーノに救いの手を差し伸べたのはアナ・ウィンターだったそうです。
モード界に強い影響力を持ち、顔の広い彼女は、懸命にガリアーノのデザイナー復帰を手助けしました。
ガリアーノの才能をこのまま眠らせておくのは、何よりの損失だと思ったのかも知れません。
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今のモード界は、これまでモードを見てきた目の肥えた人達から見るとガッカリさせられるような状況です。
それは経営陣以外の、モード界の中枢でクリエイティヴに関わる人達は声には出さないけど多くの人が感じていることだと思います。
そんな人達にとって、今回のガリアーノによるショーは、“モードな人達”の渇いた心に久しぶりに感動を与えてくれるような素晴らしいものでした。
モードという精神が窮地に立たされた今、一度はモードの世界から追放された人物が今度はそれを見事に救ってくれたような気がしました。
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ガリアーノが描く少し歪んだ美的世界観。
今まで見たことのない美しいシルエットの洋服、振付師,パット・ボグスラウスキーによって監修されたモデルの演技のようなウォーキング、まるで陶器のようなメイク、ゴシックで不穏な気配を漂わせるスモーク、ショーの空気を彩る音楽、細部まで作り込まれた素晴らしいロケーションと映像のフレーミング…
息を呑むとは、まさにこのことです。
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こんなデザインの服、街で誰が着ますか?
こんなメイクや顔に誰が憧れますか?
でも、これこそが正真正銘のモードなんです。
ルブタンとコラボしたTabiブーツはきっとセレブ達のSNSには登場するのでしょうけど、ガリアーノ自身が見てほしいのはきっとそんなところではない筈です。
今は、このショーの素晴らしさが理解できるような人の感性の方が片隅に追いやられて、ルブタンのTabiブーツを買ってSNSでアップする人やマルジェラの四つ打ちステッチの入ったアイテムをこれ見よがしに上げる人の方が“オシャレ”と一般の人には認識されてしまうような世の中ですが、このガリアーノのコレクションがそんなつまらない世界を変えるきっかけになってくれることを願っています。