gap PRESS MENの最新号は、2025 Spring&Summer PARIS MEN’S COLLECTION特集号です。
表紙は、38年のデザイナー人生から引退することを発表したドリス・ヴァン・ノッテンによるラストコレクションのフィナーレ。
左の白髪の男性モデルは、38年前にドリスのデビューコレクションでファーストルックを務めた方だそうです。
今回のドリス自身が手がける最後のコレクションでも、ドリスは彼にファーストルックのモデルを任せました。
ドリスらしく、粋な演出です。
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DRIS VAN NOTTEN
ドリスは、今回の引退コレクションを迎えるにあたって、最後のコレクションを発表した後に引退を伝えるのではなく、先に引退を発表した後でコレクションを行いたかったそうです。
だからと言ってコレクションはこれまでの集大成的なものにするのではなく、あくまでいつも通り、クラシックを感じさせつつも時代の一歩先をゆくようなモダンで革新的なエレガンスの提案。
特別感も演出しつつ最後まで自身のスタイルを崩さない姿勢に、「だからドリスが好きなんだ」という気持ちを改めて噛み締めました。
僕が最初にドリスを買ったのは、まだ高校生の時でした。
当時買ってたコレクション誌(確かファッションニュース)でドリスを知って、このブランドの服が着たいと思いました。
当時は月に1回、バイトで稼いだお金を全部財布に詰め込んで田舎の淡路島から大阪まで買い物に出かけていました。
いきなりドリスの新品には手が出なくて、ブランド古着屋さんで見つけたシンプルなシャツを買いました。
今思えば僕には少しオーバーサイズだったし、特別そのデザインが気に入ったわけでもなかったのかも知れないですが、それでも雑誌でコレクションを見て憧れていたドリスの洋服に初めて袖を通した時の気持ちは、緊張と高揚感が入り混じった感覚で、自分にとってそれは今でも忘れない特別な瞬間でした。
美容師になって仕事を頑張って、今ではドリスの服も家のクローゼットにたくさんありますが、その全てが僕にとってはお気に入りで大切な洋服です。
長い間、素晴らしいコレクションと洋服をありがとうございました。
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RICK OWENS
リックも大好きなデザイナーの一人です。
商業性と効率性が重要視される今の時代、こんなにスペクタルなコレクションを行えるブランドがリック以外に存在するでしょうか?
前にも少し書かせていただきましたが、このショーには僕が担当させていただいていたお客様がモデルとしてランウェイを歩いています。
この春にフランスに行く直前にカットしに来てくれて、その3ヶ月後にリックのランウェイを歩いているなんて、本当にビックリしました。
僕自身はショーで使用されるような強烈なインパクトの洋服はあまり買いませんが、それでも比較的ベーシック寄りなリックの服を買い続けているのは、モードの世界の中で高い芸術性を追求しているリックの姿勢に感銘を受け一票を投じたいという気持ちもあるからです。
今は円安や物価の高騰もあって、リックの洋服はかなり頑張らないと買えないくらいの金額になってしまっていますが、今所有している洋服を大切に着倒しつつ(リックの服は本当に丈夫で長持ちします)、これからも良いなと思ったものは少しずつでも買えるように仕事頑張ります。
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ZIGGY CHEN
最近は中国からも面白いデザイナーがたくさん出てきています。
gapの誌面でZIGGY CHENが紹介されているのも嬉しく思いました。
ジギー・チェンは、アルチザン寄りのブランドです。
アルチザンブランドとは、多くのコレクションブランドのようにエレガンスを極めようとするのではなく、職人の手仕事によるトレンドに捉われない究極の服作りを目指しているブランドのことを指します。
コロナ禍で存続を断念したハイダー・アッカーマンというブランドがあったのですが、ハイダーはアルチザンとモードの境界線にいるような折衷主義の服作りが得意で、個人的にもとても好きなブランドでした。
このジギー・チェンの服作りは、少しハイダーを彷彿とするところもあります。
僕は、中国のブランドでは、UMA WANG(ユマ・ワン)というデザイナーの洋服が好きでたまに買います。
ユマ・ワンも、ジギー・チェンのもとで働いていたことのあるデザイナーですが、男性的な力強さを感じるジギー・チェンに対してユマ・ワンの服作りはより中性的です。
中国人デザイナーらしい独自性のあるデザインやテキスタイルと、その毒っ気を抗毒血清のように中和させる柔らかさを感じるディティール。そのバランス感覚が素晴らしいです。
これら二人の中国人デザイナーのように、自身が生まれ育った環境の土着性を持った服作りをするデザイナーが世界中から出てくるのは、とても面白いことです。
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今回、紹介した3つのブランドは、ラグジュアリーというよりデザイナーズブランドの毛色が強いです。
今の時代は大勢にとって共感されやすいものを選びたいというマインドの人のほうが圧倒的に多いと思います。
ですが、その潮流が強ければ強いほど、その傍らでカウンターカルチャーを生み出している人達の存在は貴重で魅力的に思えます。
少し前に心斎橋のシネマートが無くなると発表された時、とても悲しい気持ちになりました。
マジョリティではない文化に興味を持つ人の絶対数がそれだけ減ってきているのだと思います。
SNSで情報収集することが当たり前の時代に育った若い世代の人達も、SNSが普及したことで自身が興味を持つものも大衆的な流行に流されやすくなったと感じている大人世代の方達も、もっと多くの方々に誰もが知っているものだけではなく、決して目立たないけど文化的で他では出せない魅力や価値のあるものの存在をもっと知って興味を持っていただけたらと思っています!
本誌はお店に置いてますので、ご興味のある方はご来店時にぜひご覧くださいませ。