stay home movies(本編)
2021.08.13.
Posted on 08.13.21
前回の『SHOAH』シリーズに続いて、今回はオムニバス形式でオススメ映画をご紹介させていただきます。
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『第三世代』 監督: ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
ニュー・ジャーマン・シネマの鬼才ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが描く“第三世代”のテロリストを描いた作品。
舞台は、1970年代末のベルリン。
テロリストにおける“第三世代”とは、それまでのテロリスト達の信念であった革命への理念を持たず、ただ目先のスリルだけを追い求めてテロを起こすようになった初めての世代のことを指します。
(もうこの時点でお笑い界の第7世代なんかよりこっちの方が俄然面白そうと思ってくれた人は、V:oltaに通い続けてください)
まず、オープニングの映像と表示されるクレジットが死ぬほどカッコイイです。
まだキューブリックで止まってるという人は、ぜひ本作を観て度肝を抜かれてください。
内容は哲学的で破壊的です。
エンタメ寄りから急にこういう作品を観るとかなり難解だと思いますが、これこそ映画におけるニューウェイヴです。
音楽でもJ-POPから、最初は洋楽のビッグネーム、そこから徐々にニューウェイヴなどアンダーグラウンドを掘り下げるようになっていった(一定のところまで進むとニューウェイヴさえオーバーグラウンドだったのだと気付く)方も多いかと思います。
自分もようやく最近になって、映画も同様なのだと気付きました。
まだ踏み出していない皆さんもぜひその第一歩を踏み出してみてください。
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『桜桃の味』 監督:アッバス・キアロスタミ
キアロスタミ監督の作品は、心が洗われるような優しさに包まれています。
本作の主人公は、自殺することを決意した中年のおじさん。
報酬と引き換えに自殺を手伝ってくれる人を車に乗って探すのですが、その道中で出会う人達との会話や人間模様が素晴らしいです。
コロナの長期化で精神的にも辛いという方もいらっしゃるかと思いますが、ぜひそういう方にも観ていただきたい作品です。
世の中には、その美しさに気づけていないだけで素晴らしいものもたくさんあります。
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『ミュージックボックス』 監督: コスタ=ガヴラス
こちらもホロコースト関連ですが、秀逸な法廷サスペンスものです。
老後を迎える父親が過去にユダヤ人虐殺に関わったとされる資料が、父の母国ハンガリーで見つかり、弁護士である娘が父の疑惑を晴らす為に裁判の弁護人になるというストーリー。
タイトルの意味は終盤でわかります。
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『山椒大夫』 監督: 溝口健二
森鴎外の小説を基にした文芸作品。
人買いにたぶらかされて親子離れ離れに売られた安寿と厨子王の物語を、タルコフスキーやゴダールからも尊敬される溝口監督の素晴らしい演出で見事に描かれています。
現代の日本人は、過去の日本の歴史の闇の部分にはあまり目を向けたがりませんが、同じ日本人として受け止めて反省すべき汚点が本作にも描かれています。
表紙の入水シーンは哀しみを超えて神秘的ですらありました。
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『自由の幻想』 監督: ルイス・ブニュエル
夢から着想を得た、ブニュエルらしい不条理さとシュールさが混在する、超絶自由な発想の映画。
出だしのナポレオン兵が頭どつかれるまでの一連の下りは、ごっつええ感じのコントよりも面白かったです。
緊張と緩和、知的品格とお下劣な煩悩。
その高低差を操るには、相当な知性とユーモアのセンスが必要で、観るものの教養も試されています。
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『工事中』 監督: ホセ・ルイス・ゲリン
スペインはバルセロナにあるエルラバル地区の大規模再構築の様子を18ヶ月、撮影時間120時間以上に及ぶフッテージから編集したドキュメンタリー映画。
ただの解体現場, 建設現場を映し出した映像に、なぜこれほどまでに感動させられるのかというくらい素晴らしいカメラの構図。
どこにでもある日常の風景を切り取った中に、どれほどの美しさや尊さが潜んでいるのか。
都会の雑踏の中で忙しく生活しているとなかなか気付くことができないものに気づかせてくれる作品です。
ドキュメンタリーですが「完全に」というわけではなく、登場人物の会話など、少し作ったようなところも見受けられるのですが、むしろそれも本作の魅力をさらに引き上げているように思いました。
本作を観てから、外を歩いているだけで、今まで日常的に目にしてきたものの見え方まで、まるで変わった感じがします。
人生における価値観を変えてくれるような映画だと思います。
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そろそろ疲れてきたので、今回はこれくらいで終わりにさせていただきます。
また映画好きのお客様とは、映画の話をさせていただくのも毎度楽しみにしております。