A Magazine curated by Lucie and Luke Meiyer
2020.11.15.
Posted on 11.15.20
少し前にご紹介したピエールパオロ特集号に続いて、今回は現Jil Sanderのデザイナーを務めるルーシー&ルーク・メイヤー夫妻をキュレートしたA Magazineをご紹介させていただきます。
装丁も美しいです。
世間では、8年ぶりに発表されたユニクロとジル・サンダーのコラボ“+J”が大盛況というニュースを聞きます。
そして、書籍をご紹介する前に“+J”に夢中になる人たちに伝えたい、もう少し待てば海外サイトのブラックフライデー・セールが始まり、商品によっては+Jのプロパー価格とさほど変わらない価格で本物のジル・サンダーが買えるということを。
(それでも僕なんかみたいな素人のただのファッション好きよりも遥かにモードの知識薄々の「オシャレ気取りインスタグラマー」のやってる“なんちゃってファッションブランド”の服を買うよりは+Jを買うことの方が一億倍は有意義な買い物だと思いますが)
但し、(このブログを見てくださってる方は当然知ってるという方が多いと思いますが)+Jをデザインしているデザイナーと、現在ジル・サンダーをデザインしているデザイナーは全くの別人です。
現在のジル・サンダーのデザイナーは、上にも書いたルーク&ルーシー・メイヤー夫妻ですが、+Jをデザインしているのが本物(変な表現ですが)のジル・サンダー氏本人です。
ファッションブランド,Jil Sanderも元々本人がデザイナーでしたが、ブランドがプラダ・グループに買収され、後にジル・サンダー氏はデザイナーを辞職、でもブランド名の『Jil Sander』はプラダ・グループの持ち物なので、ジル・サンダー氏は「自身の名前を名乗ってデザインができない」という事態に陥りました。
そして、長らく表舞台から姿を消していた彼女にオファーを出したのがユニクロでした。
『+J』の誕生です。
プラダグループから「コストの削減を、そしてもっと売れるデザインを」と要求されても断固拒否し、終いには自身のスタイルを変えるくらいなら自分の名前のついたブランドでも去る決断をするような頑固者のジル・サンダーが、当時まだダサかった極東の田舎ファストファッションブランド, ユニクロのオファーを受けたのは、そういう行き場を失った彼女の状況も大きく影響しました。
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ブランド, Jil Sanderには、ラフ・シモンズが就任。その後、プラダグループの元を離れたブランドにジル・サンダーが電撃復帰しますが、僅か1年あまりで退任。その後、Pradaなどで経験を積んだロドルフォ・パリアルンガがデザイナーに就任しますが、これもパッとせず、しかもジル・サンダー~ラフ・シモンズへと受け継がれたメゾンのミニマリズムの精神も同時に失うという大きなダメージも負いました。
Louis Vuitton, LOEWE, Doir, Balenciaga, Saint Laurent, Valentinoなどの他のラグジュアリーブランドが、デザイナー交代で活性化する中、Jil Sanderはミラノコレクションの中でも存在感を失っていきました。
そんな状況の中、起死回生を求めて経営陣が起用したのが、今のデザイナーであるルーシー&ルーク・メイヤー夫妻です。
夫婦ですが、二人のファッション界での歩みは全く異なります。
夫のルークはストリートの人気ブランドSupremeのヘッドデザイナーを務めた後、自身のブランド“OAMC”を立ち上げます。
妻のルーシーは、マーク・ジェイコブス時代のルイ・ヴィトン、ニコラ・ジェスキエール時代のバレンシアガで経験を積んだ後、ラフ・シモンズの率いるクリスチャン・ディオールでオートクチュールとレディ・トゥ・ウェアのヘッドデザイナーに就任します。
ラフが抜けた後のディオールにおいて、デザインチームが発表する時期が少しありましたが、その時にデザインチームを率いたのもルーシー・メイヤーです。
ストリート畑出身のルークと生粋のラグジュアリー路線のルーシーとのハイブリットは、それまでのストイックなまでにミニマルを追求してきたジル・サンダーの精神に程よい抜け感を齎しました。
ルークの得意とする都会的なストリートのエッセンスを感じるルーズ・シルエットによる抜け感に、ルーシーが持つオートクチュールさながらのエレガンスが加わり、Jil Sanderは一躍モード界の最注目ブランドのひとつになりました。
ほぼ同時期に、同じく「ハイセンスな大人のエフォートレス・シック」を得意とするデザイナー,フィービー・ファイロがCelineを去ったのも、ルーク&ルーシーによるJil Sanderの追い風になったのも、あると思います。(天津・木村風)
説明がかなり長くなってしまいましたが、中の写真も少しご紹介いたします。
よく見ろ!職業を“デザイナー”と名乗ってる“なんちゃってファッションブランド”やってるオシャレ気取りインスタグラマーたち!
どれだけJil Sanderやフィービー時代のCelineのパターンほぼ丸パクリ(The ROWなら許す)で「私のデザインした服です、イケてるでしょ?」と自信満々でインスタグラムに載せようが、君たちが逆立ちしても彼ら彼女らのデザインの奥深さには微塵も及ばない。
「本物の」デザイナーが被害を受けない為にも、一刻も早く卑怯なマネはやめていただきたい。
そして、買う側の人達もそのことをサステナブルと同じくらい大切に考えてほしい。
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真面目な考察に戻ります。
これらの「花や植物」と「人物」の対比、特に上2枚の「花びら」と「ヌード」の対比はロバート・メイプルソープからの影響も受けてるのだなと感じました。
メイプルソープは、エディ・スリマンやラフ・シモンズなんて影響モロだし、この前ご紹介したピエールパオロ・ピッチョーリをキュレーションした号でも影響を受けたであろう写真が掲載されていました。
今のモード界においても、多くのデザイナーがメイプルソープの影響を受けているんだろうなと推測します。
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余白があるページ構成も印象的でした。
ドイツ人らしい「無駄が全くない」美しいシルエットが最大の売りのJil Sanderに、シルエットや着心地の“余白”を齎したのがルーク&ルーシー・メイヤー夫妻でした。
二人の手掛けるコレクション同様、見ていて非常に心地の良い余白です。
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途中、不快に感じられる方もいらっしゃるかと思う文章ですみません。
ファッションだけじゃなく、カフェなんかでも「インスタ映え」を一番に考えてる店が多い中で真摯に美味しいコーヒーを追求しているお店があるように、“本物”が正当に評価される世の中になるには、自分たち消費者がもっと洗練されないといけない、と感じる今日この頃です。
本誌はお店に置いてますので、ご興味のある方はぜひご覧くださいませ!