漂流のアメリカ

2021.10.10.

Posted on 10.10.21

先週のお休みにワクチン1回目の接種を受けてきました。

スタッフは皆、多少の副反応はありつつもなんとか無事に1回目の接種を完了いたしました。

2回目の接種が10月の第4週を予定している関係で、今月は第3火曜日が営業になる代わりに25日の第4週目の火曜日がお休みとなりますので、どうぞみなさまご確認とご了承の程、よろしくお願いいたします。

 

1回目の接種を午前中に終わらせた僕はというと、一回帰宅して安静にして様子をみていたのですが、あわよくば夕方からシネヌーヴォでやってるケリー・ライカート特集を虎視眈々と狙っていて、全然大丈夫な感じだったのとポテンシャルが変な接種者ーズハイ状態(体温のことではない)になっていたので、夕方からシネヌーヴォへ向かい『リバー・オブ・グラス』と『オールド・ジョイ』を立て続けに観てきました。

 

 

 

ケリー・ライカート(今回は特集に合わせてライカートと書きますが、ライヒャルトとも表記されます)は、素晴らしい感性を持ったアメリカのインディペンデント系の女性映画監督です。

 

今回上映されている4作では、『ウェンディ&ルーシー』のみDVD化されてて観ることができるのですが、他の3作はこういう機会じゃないとなかなか観れないので、今回の特集は楽しみにしてました。

 

ライカート作品は、時間にして1時間ちょっとくらいの比較的短めの作品が多く、今回鑑賞した2作もそれぞれ76分, 73分と短いので、2本立てで観ても全然疲れませんでした。

 

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『リバー・オブ・グラス』

 

 

 

 

ケリー・ライカート監督のデビュー作。

監督曰く、本作は「ロードのないロードムービーであり、愛のないラブストーリーであり、犯罪のない犯罪映画」である。

 

本作は、ライカート監督が30手前の時に撮影した作品です。

多少なりともカルチャーに感化された人は、二十歳を迎えた時に「自分の20代はどんなものになるのだろう」という微かな期待を持つのではないかと思います。

 

(わかりやすいところでいうと)『パルプフィクション』や『レオン』、『時計仕掛けのオレンジ』などを観て、それらの作品の登場人物のようなクールで刺激的な20代が待っているのではないか。

しかし現実は大抵の人達において、大した冒険もせず、夢見るようなアヴァンチュールは訪れず、クライムサスペンスのようなハラハラドキドキする事件も起こらずに、やがて30歳を迎えてゆきます。

 

本作は、そんな“凡庸な人生”を送る運命にありそうな主人公の女性が、目一杯背伸びしたような大人の青春映画です。

 

写真の左下の男の指の間には、“Mom”と刺青されています。

実家を追い出されてホームシックになって、“Mom”と刺青を入れる男が本作の主人公のパートナーです。

 

そんなユーモアも効かせつつ、タバコを足移しで渡すシーンなど、デビュー作にして類まれな映像のセンスを感じます。

『リバー・オブ・グラス』の説明はこれくらいにしときます。

 

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『オールド・ジョイ』

 

 

前作からいくつかの短編を挟み、12年ぶりに完成させた長編2作目。

(商業系ではない映画を作るのは金銭的にも大変なんです)

 

こちらは、かつての親友との男同士の一日キャンプ旅行記。

一方は気ままなその日暮らし、もう一方はもうすぐ父親になるという、生活環境や人生において二人の関係性に変化が生じていく刹那の空気感を見事に表した作品です。

 

自由に生きるカートは旧友マークとの時間を、かつての青春時代のように誰にも邪魔されずに楽しく過ごしたいと望むが、マークのもとにはそんな楽しい空気を切り裂くように奥さんからの電話がかかってくる。

 

本作の音楽は、ヨ・ラ・テンゴが手掛けています。

僕もヨ・ラ・テンゴはアルバム全部持ってるくらい好きなのですが、本作での音楽も作品にも非常に合っててとても良かったです。

そしてストーリーや映像はそれ以上に良かった。

男性の監督ならもっとセリフを増やしそうなところを、何も語らずに映像のムードで登場人物の心境を視聴者に感じさせる演出も、女性監督ならではの感性で素晴らしかったです。

 

 

自分は友達がもともと劇的に少ないのですが、本作を鑑賞後にコロナ禍というのもあって最近は連絡をあまり頻繁に取ってなかった親友に久々に電話をかけました。

こちらも久々に声を聞けて嬉しかったですし、相手も電話の向こうで嬉しそうに喋ってくれているのがわかりました。

自分は既に結婚して子供もいますが、彼はアラフォーの独身で、働き方のスタイルにも独自のこだわりを持っていて、いまだ契約上はアルバイトを貫いた生き方をしています。

最近ヤフオクでフィッシュマンズのTシャツを買ったと教えてくれました。

「(プレミアついてて)めっちゃ高かってん」と、まるで今後日本に迫っている財政問題や老後問題など一切存在しないかのような無邪気なセリフが、会話してて羨ましくも思えました。

友情とは良いものです。

 

『ミークス・カットオフ』もどこかのタイミングで観に行けたらいいなと思っています。

ご興味のある方は、ぜひケリー・ライカートの映画もご覧になってみてください!