冬の旅

2022.12.06.

Posted on 12.06.22

タイトルだけ見たら、どこか旅行へ行ったのかな、と思う方もいらっしゃるかと思いますが、僕が行ったのは梅田にあるシネリーブルで、このタイトルはアニエス・ヴァルダによる映画『冬の旅』のことです。

 

 

原題は『Sans toit ni loi』

直訳すれば「屋根もなく、法もなく」と言う意味になります。

 

ベルギーの映画監督,アニエス・ヴァルダによる1991年の作品。

 

本作の主人公は18歳の少女,モナ。

物語は、若い彼女の遺体が発見されたところから始まります。

 

 

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観るまでは『冬の旅』という邦題もいいなと思っていましたが、これは旅なんてもんじゃない。

生きるということを放棄しているかのような怠惰な女性の終わりなき放浪記。

 

傑作ドキュメンタリー作を多数遺したヴァルダですが、劇映画での視点も流石です。

 

自分はアリの如く働くので、怠け者の主人公には一切共感できなかったですが…

 

日本にもホームレスはいますが、それを選ばない選択肢があった方もたくさんいらっしゃると思います。

でも、彼ら彼女らは、自由と制約とを天秤にかけて、そして自由を選択したのです。

その結末が、他人にとってはとても哀れに見えるものでも、それを選択することも本人の自由なのだから。

ただ、いよいよと言うところまで追い詰められた時、その選択を後悔する人はどれくらいいるでしょうか。

それは、御馳走三昧の暮らしをしてきた裕福な人が取り返しのつかない大病を患った時に後悔するのと大して違いはないような気がします。

 

資産家のおばあちゃんと主人公が談笑するシーンがとても良かったです。

主人公に少しでも生に対して欲の気持ちがあれば、人生のレールに戻れるチャンスはいくつもあったのに。

 

感電のシーンとかも最高でした!

ヴァルダのユーモアのセンスは、ゴダールよりも数段優れています。

 

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話は変わりますが、先日、英国映画協会が10年ごとに発表している「史上最高の映画100」(全世界の映画関係者が投票しています)の最新版が発表されたのはご存知でしょうか?

https://www.bfi.org.uk/sight-and-sound/greatest-films-all-time

 

ここで選出されている作品の多くは、映画において特に芸術性が高いと評されているものが多いです。

古い映画も多いですが、それらは今の時代にこういう映画を作るのは、もはや無理だろうと思えるものがたくさんあります。

 

観たことない作品が多いけどキューブリックやデヴィッド・リンチあたりは好きだ、というくらいの感覚をお持ちの方なら、あとは白黒や長回し等に対する耐性さえつけば、どんどん映画の沼にハマっていけると思います。

 

僕は今、新潮で連載されている坂本龍一さん(以下教授)の連載を読んでいるのですが、東京大学で講義をした際、(大勢の希望者の中から厳選された)受講者の学生に一人ずつ自身の専門分野に関することと好きな映画について質問したらしいです。

皆自身の勉強している分野については立派に答えたそうですが、映画に関してはここで選出されているような作品を出した人はただ一人(ゴダールの映画を挙げたそうです)だったみたいです。

それを残念そうにしていました。

また、教授が韓国でイベントを開催した際、若い世代の子もたくさんサインを求めて来られたらしく、日本では全くそういうことがないのでビックリしたとも語っていました。

それだけ芸術寄りのカルチャーに興味を示すような日本人が減ってきているのだと思います。

 

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僕自身はあくまで自分のしていることはただのサービス業だと思っていますし、実際美容師はその名の通りのサービス業です。

ですが、その中にほんの僅かでも芸術性みたいなものを入れられたらなと思って、こうやって芸術映画とかも積極的に観たりする訳です。(もちろん、好きだから観てる部分の方が大きいのですが)

 

僕自身は個人のインスタグラムもやっていないくらい(お店のアカウントは作ってしまったので、なんとか頑張って続けています)インスタにはあまり大きな関心が持てないのですが、同じく美容師をされている方の中にはインスタを使って自身の担当したお客様とかを掲載している方もたくさんいらっしゃるかと思います。

それは全然良いのですが、そのアカウントのカテゴリを芸術/アートみたいなのを自ら選択されている方も少なくないように思います。

これはあくまで僕の個人的な考えですが、職業が美容師で自分の仕事を自ら芸術だと分類するには相当な技術と感性を持っている必要があると思いますし、それを掲げるなら最低でも僕なんかよりもこういった芸術映画にも関心を示してほしいなと思ったりします。

そうじゃないと本当に芸術を理解しているような人達からは、美容師自体がいつまで経っても安っぽく見られてしまうと思うので。

大したことない奴が偉そうなことを言ってスミマセン。

 

あ、それとこちらのランキングは、上と少し違って世界480人の映画監督たちによるベスト100ですが、こちらには『冬の旅』が堂々ランクインしています!

https://www.bfi.org.uk/sight-and-sound/directors-100-greatest-films-all-time

 

二つのランキングで、1位がアケルマンの『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』とキューブリックの『2001年宇宙の旅』で違いがあるのも面白いです。
僕は20歳の頃なら『ジャンヌ・ディエルマン』を観ていたとしても、まだまだそれを理解できるくらいの知識がなかったので、『2001年』の方をフェイバリットにしていたかも知れないですが、今ならアケルマン作品の方がキューブリックよりも断然好きだと言えます。

僕自身もまだまだ未鑑賞の作品がたくさんあるので、これからの人生をこれらの作品と共に楽しみたいと思います。

 

映画にご興味が湧いてくださった方は、ぜひシネリーブルにも足を運んでみてください!