悪は存在しない
2024.07.19.
Posted on 07.19.24
先日のお休みは、遅ればせながら濱口竜介監督の新作『悪は存在しない』を観てきました。
-あらすじ-
長野県、水挽町(みずびきちょう)。自然が豊かな高原に位置し、東京からも近く、移住者は増加傾向でごく緩やかに発展している。代々そこで暮らす巧(大美賀均)とその娘・花(西川玲)の暮らしは、水を汲み、薪を割るような、自然に囲まれた慎ましいものだ。しかしある日、彼らの住む近くにグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものだったが、森の環境や町の水源を汚しかねないずさんな計画に町内は動揺し、その余波は巧たちの生活にも及んでいく。
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本作のきっかけは、『ドライブ・マイ・カー』でも音楽を担当した石橋英子さんから濱口監督への映像制作のオファーだったそうです。(『GIFT』という映像作品から発展して本作が制作されました)
本作のあらすじを読むと、豊かな自然を破壊してまでグランピング施設を作ろうとするなんて酷いと感じる人もたくさんいると思いますし、僕自身もこういうのは日本の社会の本当に愚かなところだと感じているのですが、濱口監督は、東京から現地住民へ説明会に来た芸能事務所の人の人間味も映し出すんです。
彼らだって決して悪人ではない。(間に入っているコンサル会社の人が一番嫌に思いました)
田舎で暮らす人、都会に住む人、それぞれに価値観も違うしマナーも違います。
そこに根っからの悪人なんてほとんどいなくて、大事なのは自身の考えばかり押し付けずに相手の立場に立ってお互いが相手の意見に耳を傾けるという姿勢なんだと思います。(今の日本の政治家たちにも同じことを言いたい。根っからの悪人も多そうですけど…)
多くの国民が寛容さを失い、日々ギスギスしていく現代の日本においても、それは各自が意識して気をつけないといけないことでもあります。
この映画は、今の日本や日本人に対して、問題提起もたくさんしています。
それをどう受け取るかも、人によっておそらく違うと思います。
大切なのは、こういう作品を観たり読んだりして考えることです。
本作は、ゴダールの影響を小難しく表現せずに取り入れてて、全体的に観やすいながらもとても面白かったです。
昔、オーストラリア大陸に上陸したホモ・サピエンスは、凶暴な野生の動物から自らの身を守る為に密林に火を放ち視界の開けた野原を作ろうとしたそうです。
その結果、炎に強いユーカリの木がオーストラリアに増え、コアラが生息しやすい土地になったそうです。
本能寺に火を放った明智光秀は、織田信長の独裁政権による日本を憂いでそのような行動に出たのかも知れません。
何が正しくて何が間違っているかは、特に当事者同士では見解が分かれることもたくさんありますが、現代の成熟した日本社会において、今のように悪知恵が働く者の方が得をし、正しい倫理観を持って生きている人の方が損をする世の中は理不尽に思えてなりません。
本作を鑑賞して、自分自身ももっと相手の立場になって耳を傾ける姿勢を持てるようにしようと思いました。
濱口監督は、エンタメに溺れる作品が多い日本映画界において(自制の気持ちを持つと宣言した直後なのに早速批判…)、素晴らしい作品を撮っている方なので、ご興味の沸いた方はぜひ本作もご覧になってみてください!
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お時間のある方は、この機会にぜひご来店くださいませ!